第39話 ハロウィン
今日は10月31日。
俗に言うハロウィンの日だ。
夜には渋谷のスクランブル交差点は仮装した人たちで溢れかえるだろう。
一度は楽しそうだしそういうのに混ざってみたいとは思うが、
まあ、俺なんかは仮装して外に出るなんていう勇気はない。
仮装してる人は移動とかどうしてるんだろうな、恥ずかしくないのかな。
それにどっちかっていうと陰の人間の俺にはあまり関係のないイベントだった。
・・・去年まではな。
今年は違う。
美術部員で集まって仮装パーティーを開くからだ。
部長権限で部員は強制的に参加することになった。
俺は最初はあまりノリ気じゃなかったが、
意外と美術部の部員のみんなはノリノリでどんな仮装にしようかとか話し合ってた。
仮装パーティーをするって言われたのが2週間前ぐらいだった。
最初はノリ気じゃなかった俺も日が近づくにつれて、
どんどん楽しみになってきて、今では多分美術部の中で一番楽しみにしてると思う。
今までこういうイベントに参加せずに毛嫌いしていたのは、
一緒に仮装する友人がおらず機会がなかっただけで本当はめちゃくちゃ参加してみたかったということがわかった。
昨日の夜もワクワクして眠れなかったぐらいだ。
鞄に仮装パーティーの仮装を詰め込んで学校に向かう。
今日は学校の様子がいつもと違う。
昇降口を抜けると誰が作ったのかわからないが、
紙で作ったかぼちゃやお菓子が学校の廊下に飾られていた。
そして学校中がお菓子の甘い匂いに包まれていてそこら中でお菓子の交換が行われていた。
自分の教室に入ると、もうすでに女子たちによるお菓子の配り合いが始まっていた。
教室のいたるところで女子たちがキャーキャー盛り上がってる。
女子ともよく話すような、クラスで陽気な男子は、
「〇〇くん、お菓子あげる!」
「ありがと!」
と、女子からお菓子をもらっている。
普段女子と話す機会がない男子はその光景を興味ないという感じで気にしていなかった。
でも俺は知ってるぞ、実はめちゃくちゃ興味あることを。
自分がお菓子をもらえないからその態度をしてるってことをな!
俺も前はそっち側だったからよくわかる。
自分の席へと向かうと、
俺の隣の橘の机にはお菓子がこれでもかと山盛りに積まれていた。
「おはよう橘。ど、どうしたの、そのお菓子の量」
「あー、いろんな人にもらったの。クラスの人とか先輩とかに」
「へー、人気者だね・・・」
「んー、こんなに食べたら太っちゃうんだけどなー」
贅沢な悩みだな。
もちろん俺の机にはお菓子など1つも乗っていない。
俺が席に座ると、橘が手を差し出してきた。
「・・・なに?」
「いや、わかるでしょ。トリックオアトリートよ」
「お菓子くれって?」
「うん。はやく」
そう言って手を動かして急かしてくる。
「くれないとイタズラするよ?」
橘が小悪魔的っぽく微笑む。
「イタズラってどんな?」
「・・・縛り付けて私の家から出れなくする」
メンヘラ?
っていうかイタズラの域超えてないか?
「はやくはやく!持ってきてないの?」
橘が子供みたいに地団駄を踏んでる。
一応お菓子はこういうこともあろうかと持ってきている。
「持ってきてるけど、そんなにお菓子あったら俺のなんていらないだろ?」
「・・・一馬くんのが欲しいの」
橘が伏し目がちにそう呟く。
突然の願望に鼓動が高鳴る。
急にそういうこと言うのやめろ。
ドキドキするだろ。
「はいはい、わかったよ」
そう言って鞄からお菓子を取り出す。
実は橘用にお菓子を買ってきてある。
魔女の形で上に砂糖でアイシングしてあるクッキー。
「はいこれ」
「何これ!可愛い!」
目を丸くして驚いてる。
喜んでくれてよかった。
「私の為に買ってくれたの?」
「そうだよ」
「ほんとに!?うれしい!」
俺があげたクッキーを大事そうに抱きしめている。
その嬉しそうな姿を見れただけでもよかった。
「実は私もあるんだよ?」
橘がそう言って鞄をごそごそしている。
なんだ?ワクワクするな。
「はいこれ!」
そう言ってラッピングされた小さな袋を渡してきた。
中にはかぼちゃや魔女、人型などの小さなクッキーがたくさん入っていた。
全て丁寧にアイシングしてある。
俺が買ってきた魔女のクッキーに負けず劣らずの完成度だ。
これが売り物だと言われても全然納得する。
「か、可愛い」
思わず口から可愛いが出てしまった。
「これ全部自分でやったのか?」
「そうだよ?頑張ったんだから」
橘は本当に女子力が高いな。
自慢の彼女だよ。
「ありがとう。ちょっと食べていい?」
「もちろん!」
綺麗にラッピングされた袋からクッキーを1つ取り出して口に入れる。
「うん!おいしい!」
「よかった!」
味も完璧だ。
「こっちも食べる?配る用だけど」
橘が四角い缶に入った大量のクッキーを見せてきた。
丸や四角の形のシンプルなクッキーだが、全部美味しそうだ。
・・・ということはこのかぼちゃや魔女の小さなアイシングクッキーは俺の為だけに作ってくれたってことか。
・・・嬉しいな。
袋からもう一つ取り出して口に入れる。
俺の為だけに作ってくれたってわかったからか、さっきよりも美味しく感じた。
そんなハロウィンも休み時間だけで、
授業は普通にいつも通り進んでいく。
俺は授業中も放課後の美術部でのパーティーが楽しみで、
授業なんてまったく頭に入ってなかった。
キーンコーン、と最後の授業の終わりを示すチャイムがなる。
「橘、行こう!」
楽しみすぎて、まだチャイムがなっている途中で橘にそう呼びかけた。
放課後、部室に全員集まった。
美術部員と特別に梅澤もいる。
「それじゃあ!美術部の仮装パーティー始めるよ!」
部長の合図と同時に全員でおー!と声をあげる。
「まずは仮装からだね」
まだ全員制服だが、
部室のカーテンに隠れて着替えて一人づつ登場するらしい。
「じゃーん!」
部長はメイド服を着て登場してきた。
部長は茶髪に三つ編みのおさげで丸メガネだが、メイド服がよく似合っている。
その後も、今期のアニメのキャラのコスプレや魔女など部員たちがそれぞれ思い思いのコスプレをして登場した。
今度は蓮の番だ。
「じゃん!」
蓮が自分の掛け声で勢いよく出てくる。
蓮は今話題のアニメの人気キャラのコスプレをしていた。
蓮の軽くパーマのかかった茶髪と高身長がびったりキャラと合っている。
部室に歓声があがる。
「めっちゃ似てるだろ?俺もこのキャラ最初見たとき、俺っぽいなと思ったんだよ!」
すぐに部員たちに囲まれてバシャバシャ写真を撮られている。
蓮も調子に乗ってポーズを決めたりしている。
ついに俺の番だ。
カーテンの後ろに行って着替える。
「加藤くんはどんなコスプレをしてくれるのかな?」
部長が煽ってくる。
よし!準備できた!
「準備できたので出ますよ!はい!」
そう言って勢いよくカーテンを開ける。
俺は今人気のドラマに登場するキャラのコスプレをした。
「すごい!そっくりじゃん!」
「一馬くん、すごいよ!」
部員のみんなも褒めてくれてよかった。
あと、残っているのは橘と梅澤だ。
「それじゃあ残ってるのは私たちだけですね!私たち2人一緒に登場していいですか?」
橘と梅澤は2人で登場するみたいだ。
橘と梅澤がカーテンの後ろに消えていく。
しばらくして部長がちらっとカーテンを覗く。
「おおっ!これはすごいね・・・」
なんだなんだ?
部員たちの期待が高まる。
カーテンの裏でごそごそ着替える音が聞こえる。
キャッキャしてるな。
「準備できました!じゃあ登場しますね!せーの!」
掛け声と同時に2人が勢いよくカーテンを開ける。
2人は魔女のコスプレをしていて、
橘は網タイツにミニスカート、そしてノースリーブの服に魔女の帽子を被っている。
手には魔女のステッキのようなものを持っている。
めっちゃ可愛いな!
対して梅澤は、
生足にミニスカート、それに胸元がざっくり開いたノースリーブだ。
くるっと梅澤が回転すると、背中も真ん中あたりまでざっくり開いていた。
「似合ってる?」
「セクシーでしょ?」
2人が合わせて言う。
目のやり場が分かんねぇ。
男子の美術部員は目をキョロキョロと泳がせている。
対して女子の美術部員は、
「すごい!さすがモデルさん!」
「橘さんも似合ってる!」
2人を囲んでまじまじ見ている。
「よし!みんなの仮装お披露目も終わったことだし、次に行きますか!」
みんな、おー!と声を出す。
テンション上がってるな。
その後も仮装パーティーは続き、
箱の中身はなんだろうな、や、絵しりとりなど、
楽しい時間が続いていった。
ひとまず計画していた全ての企画が終わり、
雑談タイムに。
部室の机にはジュースやお菓子が並んでいる。
橘は部員のみんなにお菓子を配っている。
蓮や梅澤も部員たちに囲まれて写真を撮っている。
「楽しいね」
橘が隣に座ってくる。
「うん」
「似合ってるよ、そのコスプレ」
橘が俺のコスプレを褒めてくれる。
「ありがと、橘も似合ってるよ」
2人でみんなが騒いでいる様子を眺める。
「私、美術部に入れてよかったな」
「なんで?」
「仲間が増えたから」
美術部は他の部活と比べて部員も多いわけじゃない。
そのせいか部員の仲間意識も強い。
「私、友達なんて少なくていいって思ってたけど、やっぱり多い方が楽しいね」
「うん。俺もそう思う」
「でもこんな楽しい時間も3年で終わっちゃうんだね」
「・・・そうだね」
目の前の楽しそうな部員たちの姿が哀しく見えた。
なんかしんみりしちゃったな。
「トリックオアトリート!」
「え?」
橘がそんな気持ちをかき消すように言った。
「だから!トリックオアトリートだって!お菓子くれないとイタズラするよ?」
「朝にもうお菓子はあげただろ?」
「まだ足りないの!」
魔女のステッキみたいなもので俺のことをツンツン突いてる。
「やめろ!これ以上お菓子食べたら太るぞ!」
「ちょっと!太るとか言わないで!」
さっきまでの寂しい気持ちなんてなかったみたいに、
俺と橘を楽しい雰囲気が包み込んだ。
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