第35話 仲直りのテーマパーク
目の前には大きなゲートがある。
このゲートでチケットを渡して入園するようだ。
ゲートでは大勢のキャストが笑顔で待ち構えている。
「こんにちはー!」
「こ、こんにちは・・・」
キャストのお姉さんの元気すぎる挨拶に戸惑いながらもチケットを渡して入園する。
ゲートを抜けると、目の前に大きな道があってそれを挟むように左右に洋風の建物が並んでいる。
陽気な音楽がながれており、橘が鼻歌でその歌を歌っている。
「遊びまくるぞー!」
橘がそう叫ぶ。
それに合わせて梅澤と蓮もオー!と叫び、
オイッオイッオイッオイッ!と奇声をあげて3人が片手を挙げて飛び跳ねてる。
・・・こいつら仲良くなるの早くね?
っていうか、なんでこんなことになったんだっけ。
始まりは蓮の一言だった。
いつもの帰り道。
「仲直りとして4人で遊びに行こうぜ」
蓮がそう提案した。
俺と蓮と橘と梅澤の4人で、ということか。
「え、いいね!行きたい!」
橘はすぐに賛成した。
「一馬は?遊びに行くのはまだ早いか?」
「いや、全然大丈夫だよ。早く打ち解けられそうだしね」
俺も遊びに行くのはいいと思った。
実はあの後、梅澤とは微妙な距離感が続いていた。
廊下ですれ違っても互いにオドオドしてるし、
俺がいることで梅澤も、
橘や蓮と仲良くしづらいだろうなというのはひしひし感じていた。
一緒に遊びに行くのは距離が縮まる良いきっかけだと思った。
「で、一馬と橘はどこ行きたい?俺はテーマパーク的なとこ行きたいんだけど」
「いいね!私も行きたいと思ってたの!」
「そうか、一馬は?」
「あー俺、そういうとこ行ったことないな。どっちかっていうとちょっと苦手かも・・・」
「制服で行きたいな!」
橘は俺が言い終わる前に話し出した。
「制服で行くのいいな」
「でしょ?」
あれ?なんかもうテーマパーク行くの確定してる?
橘と蓮の2人で話が進んでる。
「えっと俺、行くならカラオケとかが・・・」
「次の金曜は?」
橘が俺の言葉を遮るように話す。
あら?橘さん?俺のこと無視してる?
「別にテーマパークじゃなくてもどっか食べに行くとか・・・」
「じゃあ金曜の放課後で決定ね!」
これはやってんな。
俺の意見なんて聞かないつもりだ。
ということで強制的にテーマパークに決定して、今に至る。
橘が乗りたいというアトラクションに4人で向かっている。
授業が終わってすぐに来たのでまだあたりは明るい。
頭にこのパークのキャラの耳を付けたり、このパークの服を来ている人も多い。
もちろん俺たち4人も付けている。
まあ強制的に付けさせられたんだがな。
橘と梅澤が前で、
俺と蓮が後ろ。
橘と梅澤はあれ乗ろうこれ乗ろうって2人でキャーキャー言ってる。
さすがJKだ、いや、ギャルか。
「2人も盛り上がってんなー」
「そうだな」
後ろからそんな2人を見守る。
橘は黒髪ロングの清楚系のギャルだが、
梅澤は金髪ロングのバリバリギャルだ。
2人ともスカートから色白な足がスラっと伸びている。
・・・白ギャルってやつか?
俺たちはこのパークのメインアトラクションでもある、
急降下するジェットコースターに乗ることに。
俺は絶叫系が苦手なんだが。
「無理無理無理無理」
そう言って駄々をこねる。
「大丈夫だって!手握っててあげるから!」
「それでも無理」
「大丈夫!一瞬だから!」
「そうだって一馬。案外怖くないって」
「あんた男でしょ?」
梅澤にも説得される。
結局3人に押し切られて乗ることに。
入場口に到着する。
電光掲示板があり、待ち時間が40分と表示してある。
その横には人の形をしたパネルがある。
身長制限のパネルだ。
「あー、俺身長高いから無理かもなー」
「そんな高くないでしょ」
梅澤につっこまれた。
「ほら行くよ!」
「オー!」
と俺以外の3人は超乗り気だ。
橘が俺の手を引っ張って入場口に連れていく。
冒険をモチーフにしたアトラクションなのか、
ジェットコースターの乗り場までの順路は薄暗く、洞窟のようになっている。
さっきと同じように橘と梅澤が前で俺と蓮が後ろで並んでいる。
「一馬くん、こういうテーマパークとか初めてなの?」
橘が振り返って聞いてくる。
「うん、初めて。うちの家族、あんまこういうの行かないから」
「そうなんだ。私とも行ったことないもんね」
確かに橘ともこういうところは初めてだな。
「ってか加藤、いつから京子と付き合ってんの?」
梅澤が話しかけてきた。
「えーっと、いつからだっけ。多分、今年の夏・・・だよね?」
橘に聞くように見つめる。
「うん、今年の夏の花火大会からだね」
「じゃあまだ4ヶ月ぐらいなんだ」
「そうだね」
まだ4ヶ月なのか。
もっとずっと一緒にいるような感じがしてた。
「どっちから告白したんだ?」
蓮も興味津々で聞いてくる。
改めて聞かれると恥ずかしいな。
「えーっと、橘だったと思う」
「違うよ!一馬くんでしょ?」
「そうだっけ?」
なんだこのイチャイチャは。
「付き合う前も遊んだりしてたんでしょ?」
梅澤が聞いてくる。
「出かけたよな、橘?」
「うん、色々行ったよ。放課後終点まで行ったり、・・・あと夜のプールとか」
「夜のプール?ナイトプールってこと?」
梅澤がそう聞き返す。
なんともギャルっぽい返しだな、ナイトプールなんて。
「いや、ガチのプール。学校のね」
「マジ!?・・・まあ京子ならいけるか」
橘は親が学校と繋がりがあるからな。
でも夜のプールは楽しかったな。
あれは付き合う前か。
そのすぐ後に行った花火大会で付き合い始めたもんな。
思えばあれで距離を縮られたのかもな。
「・・・私も行きたいな」
梅澤がそう呟いてちらっと蓮の方を見る。
蓮は気づいていないみたいだ。
なんだ?
こいつってまさか・・・いや気のせいか。
そんな話をしているとジェットコースターの乗り口までやってきた。
ジェットコースターは汽車のようになっており、
安全バーだけで、がっつり体が出てる。
・・・本当に大丈夫か?
「やばい!ドキドキしてきた!」
橘がそう言ってぴょんぴょん飛び跳ねてる。
いよいよ乗り込む。
2人乗りなので、俺と橘、蓮と梅澤のペアで乗ることに。
最悪なことに俺と橘は先頭だった。
その後ろに蓮と梅澤がいる。
「安全バー確認しますね〜」
お姉さんがそう言って安全バーを押し込む。
「あ、やばいわ、めっちゃどきどきする」
「私も!」
橘に手を差し出す。
「ん?なに?」
「いや、手握ってくれるって言っただろ?」
「無理〜」
橘が楽しそうにリズムをつけて言ってそっぽを向く。
「おい!約束と違うじゃねーか!」
「好きって言ってくれたら手繋いであげる」
プルルルル、と動き出すサイレンが鳴る。
「好き好き好きです!大好きだから!」
そう叫ぶと俺が差し出した手を橘がギュッと握ってきた。
「私も!」
ニッコニコの橘がこっちを向く。
それと同時にジェットコースターは動き出した。
そっからは最悪だった。
これでもかと上まで登り、一気に急降下。
景色なんて見る余裕はなく、ただジェットコースターに身をまかせるだけだった。
ぐるっと縦に一周したり、ぐるぐる回ったり、なにがなんやらだった。
乗っているときは横の橘、そして後ろの蓮と梅澤の楽しそうな声が聞こえていた。
乗り口に戻ってきたときにはすでに疲労困憊で燃え尽きていた。
出口にでると俺以外の3人は大盛り上がりで、
「マジでやばくなかった!?」
「激ヤバ!」
「マジやばすぎ〜、一馬ビビりすぎ〜」
なぜか蓮までギャルっぽい話し方になってる。
おい蓮!橘と梅澤に引っ張られてるぞ!
他にも色々アトラクションを回った。
ある程度満足したところで、
このテーマパークのシンボルでもある大きな城の前で休憩することに。
もう日も沈み始めていて、城がオレンジに照らされている。
城の前には俺たちみたいに制服を来た人が多く、
カップルや友達同士などたくさんいた。
みんな城を背景に写真を撮っている。
道中で買ったチュロスを食べながら休憩する。
「京子!写真撮ろ!」
「おっけ!」
2人はそう言って城を背景に写真を撮っている。
なんか色々ポーズしたり、チュロスをかじったりしてる。
・・・橘は梅澤といるときはJK感というかギャル感が増すんだよな。
喋り方も違う気がする。
「4人でも撮ろ!」
橘が提案する。
「ほら!もっとこっち寄って!」
「はいはい」
「撮るよー、はいチーズ!」
カシャ、と音が聞こえる。
橘が撮った写真を確認する。
「ねぇ、めっちゃ良くない?」
「えーどんなの?」
4人で写真を確認する。
確かにいい写真だ。
4人とも楽しそうだし、後ろの城も綺麗に写っている。
・・・俺って自然に笑えるようになったな。
昔はぎこちない笑顔って橘にも言われてたのに。
これも橘のおかげかな。
「やっぱお城っていいね〜。私、お姫様とか憧れるな〜。ドレスとか着てみたい!」
橘はスタイルもいいし似合いそうだな。
「京子は似合うね、王子様が迎えに来てくれるよ」
梅澤がそう言って俺のことをちらっと見る。
俺が王子様?
「迎えに来てくれるの?」
橘が顔を近づけてニヤニヤしながら聞いてくる。
「暇だったらな」
「待ってるね!」
女の子はお姫様に憧れるのか〜。
男は王子様に憧れるとかはないと思うけどな〜。
「ってか蓮って彼女いないよね?」
橘が唐突に確認する。
「おーいないぞ、全然モテないし」
嘘つくな!俺は知ってるぞ。
お前がめっちゃモテることを。
蓮は軽くパーマがかかった茶髪で高身長で顔も整ってる。
「嘘つけ、体育祭で写真撮ってくれってめっちゃ声かけられてただろ」
「え〜!そうなの?」
橘が驚く。
そうか、橘は蓮がモテること知らないのか。
「まあなぁ〜、俺って人気みたいだわー」
蓮が冗談っぽく言う。
「・・・」
一人浮かない顔をしている金髪を俺は見逃さなかった。
「そういえばパレードあるみたいだよ」
橘がスマホを見て話す。
このテーマパークのパレードは豪華で有名だ。
光るトロッコに乗ったキャラクターがパークを歩く。
それを道の縁側で見る。
「俺もせっかくだから見たいな。一馬は?」
「せっかくだしな」
「里奈は?」
「私も見たいな」
「じゃあ決定!あと1つぐらいアトラクション乗る時間あるかな?」
「ギリギリだな」
蓮が時計を見て答える。
「じゃあ今すぐいこ!」
橘が立ち上がって催促する。
パレードが始まる前にアトラクションを一つ乗り終わって時計を見ると、
ちょうどパレードが始まる前だった。
4人でパレードが見えそうな場所を探す。
だが、パレードが綺麗に見えそうな場所はもう埋まっていた。
ちょっと外れたところが空いていたのでそこで座って見ることに。
しばらくしないうちに人がどんどん集まってきた。
あたりはもう暗く、
さっきの城がライトアップされていた。
突然、パーク中に音楽が流れる。
始まるみたいだ。
奥から光るトロッコに乗った様々なキャラクターがこちらへ向かってくる。
キラキラと光っていて綺麗だ。
「わぁ〜!綺麗!」
隣の橘が呟いている。
女の子はこういうの好きだよな。
確かにこのパレードが人気な理由がわかる。
目の前を非現実的で綺麗なものが通り過ぎていく。
あたりが幻想的な光に包まれていて、トロッコの上でキャラクターがダンスしている。
前に座っている蓮と梅澤をちらっと見る。
「綺麗だな〜」
「・・・うん」
生返事の梅澤はパレードじゃなくて蓮の顔を見ている。
あぁ、これ、俺は知ってる。
俺が花火大会の時に、花火じゃなくて橘に見惚れていたのと同じだ。
その時の記憶がフラッシュバックする。
花火がどんどんとすぐ近くで打ち上がり、空に消えていく。
赤、オレンジ、緑など様々な色や形の花火が打ち上がる。
「わぁー!すっごい綺麗」
橘の横顔が花火に照らされていた。
橘の横顔が花火に照らされていて、俺は花火なんかよりその横顔を見ていた。
花火より橘の方が綺麗だった。
あぁ、この時間が永遠に続けばいいのに。
「綺麗だね」
それは花火と橘、両方について言った。
「そうだね」
ベンチに置いていた手が橘に触れる。
それに気づいた橘と見つめ合う。
その大きな瞳に吸い込まれそうだ。
心臓の音がうるさい。耳の近くで聞こえるみたいだ。
もっと近づきたい。そう思った。
2人の顔が近づく。
橘が目を瞑った。
橘も俺と同じ気持ちだった。
もう、いじめられていたことなんてどうでもよかった。
ただ、目の前の橘が愛おしかった。
唇を重ねた。
大きい花火が上がった。
夜空を明るく照らし、暗闇に消えていく。
でももう花火の音なんて聞こえてなかった。
唇が離れる。
ドンッ、ドンッと花火はまだ上がり続けている。
少し照れた橘がいたずらっぽく笑って言う。
「もう友達じゃいられないね」
今まさにその光景が目の前にある。
心なしか悲しそうな梅澤の横顔。
それに全く気づいていない蓮。
梅澤は、蓮のことが好きなんだ。
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