どうやら俺をいじめているギャルが俺のことを好きらしい
ぺいぺい
第1話 黒髪美少女
俺は自分の名前が書ければ受かると言われるような、どこにも入れないヤツが行くことで有名な「英翔高校」に通っている。ここは地元で有名な不良が集まる高校で、ろくに勉強もせずに成績が悪かった俺はこの高校に行くしかなかった。
入学式の日。昇降口に張り出されたクラス表を確認し教室に移動した。ドキドキしながら教室に入ると金髪にピアスや剃り込みをしてるやつ、カバンにキーホルダーをじゃらじゃらつけたギャルなどいかにも不良っぽいヤツばかりでびびった俺は急いで自分の席を探した。俺の席は教室の窓側の一番後ろの席だった。
クラスに人がだんだん集まってきた頃、教室の前の扉からひときわオーラを放った女子が入ってきた。そう、こいつがのちに俺をいじめるギャル5人グループの一人「橘 京子」だ。
クラス中が橘を見ていた。俺もぽーっと見ていると、橘は俺の隣の席に座った。俺はこんな美少女の隣でラッキー!と思っていたが、今考えると地獄の始まりだった。
入学式から数日後、隣の席の橘はすでにクラスの不良の女子と仲良くなっており、そいつらはいつも橘の席に集まっていた。橘の隣の席の地味な俺がいじめの標的になるのに時間はかからなかった。
上履きに画鋲や机に落書きなど陰湿ないじめではなく、俺のスマホを勝手にいじったり、購買に買いに行かせたり直接的なものが多い。放課後は体育倉庫に呼び出されてパシリや遊び相手とされ、所属している美術部には全然行かせてもらえなかった。
そしてようやく梅雨が明け始めた6月下旬。本日に至る。
ジュース代を出してくれたり、半分持ってくれるなど最近優しい橘。
橘も最初はいじめに加担していたが最近はなぜか違う。
「部活はどうなの?何か言われないの?」
「数回しか行ってないし、幽霊部員だと思われてる」
「ふーん」
最近、やたらと俺について知ろうとする。
少しの間沈黙が流れる。
「美術部に女子っているの?」
「ほとんど女子だよ」
「・・・じゃあダメだな」
小声で橘が何か言ったが聞き取れなかった。
体育倉庫の扉を開けて中に入る。
「京子に持たせてんじゃねーよ!」
グループの一人が怒鳴る。
怒鳴ったこいつはグループの中でも橘と一番仲のいい「梅澤 里奈」。
金髪ロングで前髪はかきあげ、中が見えそうなくらいスカートが短い。誰でも一目でわかるぐらい典型的なイマドキのギャルだ。
この体育倉庫は体育の授業で使わなくなった跳び箱やマットなどが置いてある。なぜかソファーもある。グループの誰かが持ってきたのだろう。学校の教師たちは体育倉庫を溜まり場にしていることを黙認している。理由は橘の親はお金持ちで英翔高校に資金提供?出資?よくわからないがとにかく繋がりがあるらしい。その影響で教師たちは橘に頭が上がらない。もちろん俺へのいじめも見て見ぬ振りだ。
橘と梅澤はソファーに座り、あとの3人はマットの上や跳び箱に座っている。
俺はいつも体育倉庫の端のほうで目立たないようにして解放されるのを待っている。
「そのイヤリング可愛い〜」
「メイク変えた?」
ファッションの話をしているらしい。こいつらにいじめられるようになってから女の子のファッションに少しだけ詳しくなった。嫌でも会話が聞こえてくるからだ。
話が落ち着いたのか体育倉庫に沈黙が流れる。
これはまずい。そう考えているとグループの一人が言った。
「おい加藤! なんか面白いことやれ」
エグい振りが来たが、こんなのは日常茶飯事だ。
「はやくしろよ」
ソファーに深く腰掛けながら煽る梅澤。
こういう時、俺は情けないが戸惑う事しかできない。
俺が戸惑っていると橘が、
「あー、今日私早く帰んなきゃだったわ。ごめん」
「えーもう帰んの?」
橘が帰りの支度を始める。それを見て全員帰り支度を始める。
体育倉庫を出ようとする梅澤が俺に吐き捨てる。
「掃除しとけよ」
俺はいつもこいつらが帰った後の体育倉庫に散らばったお菓子のゴミやジュースの缶を掃除させられる。
「・・・はい」
逆らうことはできない。びびって同い年なのに敬語を使ってしまう。
陽は落ちておらず、まだあたりは明るい。遠くで野球部の掛け声が聞こえる。
ギャーギャー騒いでいたあいつらが出て行った後の体育倉庫はとても静かに感じる。一人で散らばったゴミを片付けていると、体育倉庫の扉が開いた。
「よっ」
橘だ。
「帰ったんじゃなかったのか?」
「忘れ物」
そう言ってあたりを探し始める。
俺も一緒に探し始めるが忘れ物というのは多分嘘だ。なぜなら俺が掃除していて忘れ物らしきものは見つからなかったし、昨日も、おとといも忘れ物と言って戻ってきたからだ。橘は毎回忘れ物を探すフリをして俺のことをチラチラ見てくる。俺と目があうと急いで視線をそらす。橘は気づいていないかもしれないが、分かり易すぎる。
橘がなぜこんな行動をするのかわからない。もしかして俺に気があるのか?と考えたこともあるが、そんなことはあり得ないと思ってしまう。
「あれーないなー」
橘の言い方が棒読みすぎて笑ってしまう。
「どこにもないなー」
俺も棒読みで対抗する。
橘とのこの時間が好きだったりする。俺をいじめている大っ嫌いなギャルグループの1人ではあるが橘は何か違う気がする。思い込みかもしれないが。
「あ、あった」
橘が忘れ物という名の俺には見えない塊をカバンの中に入れる。
「よし!帰るか〜」
橘が独り言のように言う。
夕暮れ。赤く光った夕日で校舎がオレンジ色に照らされている。
俺は自転車置き場に向かう。なぜか橘もついてくる。
橘は電車通学のはずだ。
俺の後ろをローファーのコツコツ音がついてくる。
俺が後ろを振り向くと、つられて橘も何かあるのかと後ろを振り向く。
橘。お前を見てるんだよ!
コントのようなやり取りに笑ってしまいそうになる。
自転車置き場に着くと、自転車の防犯チェーンを外すのを橘がじっと見ている。
「・・・何?」
俺が問いかける。
「方向一緒でしょ。乗せてって」
「電車じゃないの?」
「いいじゃん」
橘が自分のカバンを自転車のカゴに放り込む。
校門の前で橘を後ろに乗せ、自転車を漕ぎ始める。
「・・・重い」
「あぁ?」
橘に睨まれる。
部活を終えた生徒たちにめちゃくちゃ見られる。
付き合ってると思われてるのだろうか。
橘は美少女だし目立つ。同じ学年で橘を知らない奴はいないだろう。
しばらく進むと、
「ここでいいよ」
橘が自転車からピョンと降りる。
「・・・じゃあね。・・・また明日」
名残惜しそうに橘が呟く。
「また明日」
俺はそう呟いて歩いていく橘の後ろ姿を見つめる。
風になびく黒髪はとても綺麗で、あたりには橘の甘い香水の香りがかすかに残っていた。
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