第166話 同盟②

その後、俺は深夜までグレイと交渉の内容を考えた。




翌日昼頃




「じゃあグレイ、予定通り影の中で待機していてくれ。」




「はっ!」




“千里眼“で今現在、要塞都市の偉い人が皆領主館に集まっていることが分かっている。


なので、俺は自身の存在を偉い人達に知らせるために領主館、しかも皆が話し合いをしている机の上に“転移“した。




「一体誰が領主様を…っ!!うわぁぁぁ!!!何者だ!!」




突然目の前に人が現れたのを見て、多くの人が驚き尻餅をついた。


その状況下で、後方から洗練された力強く美しい一閃が俺の首元に飛んできた。




俺はその強力な一閃を、“硬質化“を付与した小指だけで防いだ。




「なっ…!!」




これは昨夜グレイと決めた作戦の一つだ。


同盟とはいえ自国が劣っていると、見下されて良いように使われることが多い。


よって、圧倒的な力量差があることを示すためだ。




『今のは…なかなか良かったな。』




その斬撃を放ったのはティーナだった。


ステータスはAランク冒険者の上位くらいだというのにこの技量…


おそらく技量だけならカイルと同等以上かもしれない。




「ティーナ!何をしている!!早くそいつを仕留めろ!!!」




「私では…敵いそうにありません…!!」




「な、何だと…?」




「落ち着け!!!」




先程俺が突然現れたことに対して全く動じなかった、威厳を感じる男性の喝で静まった。




「…失礼しました。私は領主代理を務めておりますキャンベル=ベネットと申します。…貴殿はどういった理由でこちらにいらっしゃったのですか?」




“鑑定“で見たティーナと同じ家名だ。


ということは、この男性はティーナの親族だろう。




「俺はヴァルハラ帝国の国王ジェノスだ。要塞都市に同盟の提案をしに来た。」




「…恐れながらヴァルハラ帝国という国に聞き覚えがないのですが。」




「つい半年前くらいに作った魔族と人族の国だ。それに、他国からの批判に備えて今は不可視化しているんだ。知られていたらむしろ困る。」




不可視化したのはこの前来た要塞都市の騎士団にヴァルハラ帝国を見つけられないようにするためだったが…


グレイと話し合い、有効活用することにしたのだ。




「魔族と人族の…?」




「ああ。ヴァルハラ帝国は魔族と人族の共存を掲げているんだ。」




「…私は以前、魔族の方に命を救った頂いたことがあります。その時から魔族と共存したいと考えておりました。…ですが」




「人族の中でそれを唱えては他国からの攻撃される…その上魔族との伝手がなかったと?」




「…その通りです。」




まさかそんな経験があったとは…


ならば、もしキャンベルが領主になれば友好的かつ協力的な関係を築ける。




「ちょっと待って!私に不可視の国と聞こえたのだけど…」




「その通りだ。そういえばこの前ヴァルハラ帝国の近くまで騎士団が来ていたな。」




「なっ…!本当ですか!?!?」




「ああ。」




不可視化の技術は遥か昔に失われたものなので、戯言の可能性を睨んでいるはずだ。


しかし、先程見せた圧倒的な力量差が脳裏によぎって断定できないのだろう。


キャンベルは唸りながら悩んでいる。




「…何なら証拠を見せようか?」




「よろしいのですか?」




「ああ。ちょっと失礼して…“領域転移“」




俺は会議室にいた全員をヴァルハラ帝国の結界前に連れてきた。




「なっ…!ジェノス殿、今なにを…?」




「空間魔法だ。さっき俺が突然現れた現象だな。」




会議室にいた全員が驚き、ざわついた。


これで更に力量差、そして魔法知識の差を体感しただろう。




「それでティーナ、ここに見覚えがあるだろう?」




「え、ええ…ここはこの前オードル君を保護した近くです。」




「じゃあ不可視化を解除するぞ。よく見ておけ。」




俺は“魔力念操作“を上手く行使して結界石に干渉し、“隠蔽“の効果を解除した。


次の瞬間、俺達の目の前に高くそびえ立つ黒い外壁が現れた。




「なっ…!本当に不可視化の技術を…!!」




皆が混乱している中、ある状況がトドメを刺した。




「お帰りなさいませ、ジェノス様。」




「ただいま。」




そう、それは吸血鬼族、つまり魔族が人族の帰還を迎える状況だ。




「本当に魔族と…っ!!あなたは!!」




キャンベルはグレイを見るや否や、鼻息を荒くしてに近づいた。


そして、突然地面に膝をついてグレイに頭を下げた。




「あの時は助けていただいて本当にありがとうございました…!」




「はて…?私めに心当たりはございませんが…」




「30年ほど前…低級悪魔が攻めてきて火の海が辺り一面に広がったあの時です!悪魔を倒していただきました…!」




「あのときの…!随分と大きく…いえ、老けましたね。」




「貴方様は全く変わりませんね…!!」




どうやら世界は俺が思っていたより狭かったらしい。


まさかそんな偶然があるとは…




「ジェノス殿、皆と話す時間をいただけますか?」




「分かった。」




その後彼らを会議室に戻し、俺は会議室の外で待機した。




数時間後




「ジェノス殿、どうぞお入りください。」




声を荒げている様子がなかったので、話し合いは円滑に進んだのだろう。




「同盟の件ですが…是非よろしくお願いいたします。」




「はい…!」




特に同盟を結ぶメリットを示す機会もなかったが、大丈夫なのだろうか…?


…まあ要塞都市側が困るだけなので気にしなくていいだろう。




「では詳細を詰めていきましょうか。まず国交に関しては…」

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