第159話 反撃
「…分かった。コルムの始末は自分達でするか?」
「いえ。おいら達には手に負えません…」
チェイス達の目から輝きがなくなり、代わりに執念に迸った憎しみの光が生まれていた。
今まで家族を救うために、どんなにつらい命令も耐え続けてきたのだ。
…その悲しみや憎悪は想像を絶するほどだろう。
「少し離れていろ。俺が跡形もなく消してやる。」
「はい…」
遠慮が要らなくなったので、広範囲魔法で城ごと殲滅する。
同時に威力が強すぎて実験できなかった魔法の実験をしよう。
…まあ後者がメインなのだが。
俺は右手で火属性魔法限界突破Lv.1”業火球”を、左手で水属性魔法限界突破Lv.1”止水球”を行使し、ストックした。
”業火球”はまるで太陽そのもののように熱くギラギラと輝き、対照的に”止水球”はまるで海そのものを凝縮したかのように冷たく陰っている。
それぞれの威力は、”業火球”は山を一つ焼き尽くして溶岩が流れ、”止水球”は山を一つ粉砕してそこに湖ができた程度のものだ。
これらをぶつけ合って起きる大規模爆発を想像すると、それだけでぞくぞくする。
衝撃に備えて俺達と集落を包むように”絶対不可侵結界”を展開した。
「…消えろ!!」
俺は”業火球”を右から、”止水球”を左から”魔力念操作”で曲線を描くように動かした。
両方が城にぶつかり城壁を削りながら進み、そして二つが衝突した瞬間。
眩しい光が辺り一帯を包み込み、そして地面が揺れるほどの音と振動が伝わって来た。
数分後それらが収まり目を開けると、雲を突き抜けてはるか上空まで黒煙が立ち昇っていた。
そして周りを見てみると、城はもちろん半径100mほどの地面が抉れて土がむき出しになっていた。
『…オーバーキルだな。』
”レーダー”で辺りの生命体を探知してみたところ、もちろん反応は一つもなかった。
命だけでなく、死体までもを消滅させていた。
…せっかく強い敵だったのだから、召喚魔法用に死体を取って置けばよかった。
俺は城の跡に近づいてコルムの魔王因子を吸収した。
そして、チェイス達の元に戻った。
「…これで良かったか?」
「はい。家族は既に殺されているかもしれないと…覚悟していたので。」
「そうか…」
「そ、それより今は悲しみとか怒りよりダグラス様の魔法に感銘を受けています…!!あの魔法は何ですか!?
」
「…詳細は秘密だ。ほどんどの人が行使できない。」
「そうですか…」
家族の死による悲しみをそんなに容易く克服できるだろうか…?
俺にはできないだろう。
これは魔法の探究に心を奪われている魔狼族だからこそできるのだろうか…?
「…とりあえずヴァルハラ帝国に戻ろうか。集落のことは帰ってから話そう。」
「はい。」
俺はチェイス達を連れてヴァルハラ帝国結界外に”領域転移”した。
そして、転移後目に映ったのは異様な光景だった。
移住してきた魔狼族とグレイ達吸血鬼が、アロハシャツのようなデザインの服を着て踊っていたのだ。
「…グレイ、何をしているんだ?」
「はっ!魔狼族の方々に魔法をご教授いただいております。」
「そうじゃなくて…どうしてそんな格好で踊っているんだ…?」
「これは集団で行う”儀式魔法”の儀式です。…お目汚し失礼いたしました。」
「気にするな。」
”儀式魔法”という魔法は初耳だ。
古代魔法の一種なのだろうか…?
興味はあるが、あのようなダサい服でバカ踊りはしたくない…
「おぉ…神よ…!!無事お戻りになられたのですね…!!」
「あ、ああ…」
そういえば魔狼族たちから神として崇拝されていたのだった。
何故だ…?
「…チェイス、説明しろ。」
「は、はい。実は皆を説得する際、ダグラス様は”空間魔法”や”究極魔法”などの”神代魔法”を行使することができる、神のようなお方だと言ったら…こうなりました。」
「…その”究極魔法”とか”神代魔法”って言うのはなんだ?」
少なくとも俺のステータスに”空間魔法”はあるが”究極魔法”やら”神代魔法”やらの文字はない。
ただ他の魔法を誤解しているだけなのだろうか…?
「”究極魔法”というのは先程コルムの城を消滅させたような、火属性魔法や水属性魔法などの範疇を超えた魔法のことです。そして”空間魔法”や”究極魔法”は、古の大戦で神々が行使したとされる”神代魔法”に分類されて呼ばれているんです。」
「なるほどな…」
もし俺が元人間で、それにコルムと同じ魔王候補者だと言ったら魔狼族は敵対するだろうか…?
しかし、配下に加えるならばちゃんと説明しなければなるまい。
「皆、聞いてくれ。俺は確かに”神代魔法”呼ばれる魔法を使える…が、元人間だ!それにあのコルムと同じ魔王候補者の一人だ。」
「あぁ…神格を得て神になろうというのですね…!!そして神を目指している身でありながら魔王になる…なんと痺れる行いでしょう…!!」
…ダメだ。
信仰にとらわれ過ぎて盲目的になっている。
『…もうそういうことでいいや。』
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