第152話 下見②
「商人の皆様、本日はご足労いただき誠にありがとうございます。」
「こちらこそ良いものを見させていただいて…ところで貴方様は?」
「はい。私は吸血鬼のグレイと申します。ダグラス様の秘書を務めさせていただいております。」
…ん?
確かにグレイは幹部達の中で一番頼っているし、幹部長を務めているがいつの間に俺の秘書に…
まさか外堀から埋めて秘書の位を取ろうとしているのか…?
…働きぶりも十分だし近いうちに秘書として正式に任命するか。
「これはご丁寧に。私は農業商会の会長を務めさせていただいておりますエカードと申します。以後お見知りおきを。」
「こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。」
エカードさんが吸血鬼に対しても人間と同じように接してくれているのを見て、なんとも嬉しい気持ちになった。
世界中の人がエカードさんのように差別しない人なら良いのに…
「ところでグレイ殿、貴殿から土の香りがするのですが…」
「実は先程まで吸血鬼の部下たちと農作の研究をしておりまして…」
「やはりそうでしたか。…しかしこの土地で作物を育てるのはなかなか難しいのではありませんか?」
「ええ。恥ずかしながらなかなか難航しております…」
「…少し畑の方を見学させていただいてもよろしいですか?」
「是非に!会長殿に見ていただけるとは光栄です!」
「ありがとうございます。ダグラス殿、少し席を外してもよろしいでしょうか?私のことは置いて案内してもらって構いませんので…」
「あ、ああ。分かった。」
「ではグレイ殿、行きましょうか。」
「ええ。よろしくお願いいたします。」
そうしてエカードさんとグレイは畑の方に歩いていった。
話の展開が早すぎて置いていかれてしまった…
『…じゃあ案内を再開しますか。』
玉座の中は流石に死の魔力の濃度が高いので、立ち入り禁止にした。
玉座の周りをぐるっと回っている最中、遠くにグレイたち吸血鬼とエカードさんが親しげに農作業をしている姿が見えた。
何はともあれ異種族間交流が上手くいってるようでよかった。
「次に居住地の方を案内する。」
歩いていると、遠くから金属が擦れる音が聞こえてきた。
遠くの開けた場所でグリム達アンデッド軍が訓練をしていたのだ。
「ダグラス様、あちらの訓練を見学したいのですが…」
「私も!!」
「僕もです。」
「あ、ああ。分かった。じゃあ全員で向かおうか。」
まずい。
アンデッド軍全員、俺が製作した装備を着けて訓練しているはずだ。
何か言い訳を考えなければ…
しかし、言い訳を考える暇もなく訓練所についてしまった。
「すごい熱気ですね…」
「ヴァルハラ帝国の騎士だからな。」
「それに装備も…っ!もしやレッドドラゴンを!?」
「あ、ああ。」
「ダグラス様のことですから手に入れるのは簡単だと思いますが、製作の方は一体どうやって…?」
「そ、それは…伝説の鍛冶師マルコ=スミスに依頼したんだ。ちなみに俺の装備は海龍の鱗から製作してもらったんだ。」
「なんと…!!力だけでなく人との繋がりまで…!!流石です!!」
何とか誤魔化せた。
マルコの名は俺が思っていた以上に広まっていたらしい。
…これから装備品関係の質問で困ったらマルコの名前を出そう。
そんなことを考えていると、グリムがこちらに近づいてきた。
商人達はアンデッド、しかも最上位アンデッドを怖がらないだろうか…?
「商人の方々、この度はご足労いただいて助かるわい!儂はアンデッド軍の司令官、ノーライフキングのグリムじゃ!今後ともよろしく頼むの!」
「っ…!!わ、私はメリルよ!よろしく…!」
商人が怖がってしまっている中、その雰囲気を打ち消すためかメリルが勇気を出して話しかけてくれた。
重い空気になっていたので本当に助かった。
「おお!!お主がメリルか!!ダグラス殿から話は聞いておるぞい!!我が主がお世話になったようで…感謝するのじゃ!」
「それなら気にしなくていいわ!私もそれで儲かってるもの!!」
「そうかそうか!!逞しいのぅ!!」
メリルとグリムはなかなか話が盛り上がっているようで、一安心だ。
それからアンデッド軍の訓練の見学を終え、居住地をぐるっと見て回った。
リリスたちサキュバスとルカたちデミデーモンは屋敷内にいたようで、会うことはなかった。
そして数時間後、案内及び下見を終えた。
「…どうだった?」
「そうね…是非ここに店を開かせて頂戴!!」
「本当か…!!」
「もちろんよ!!みんなもそうよね?」
「おう!!」
「最初からそのつもりだぜ!!」
「…っ!!ありがとう!!」
魔族を恐れて何人かは辞退するだろうと思っていたが、皆快く承認してくれた。
これで一気にこの国は発展するだろう。
「…じゃあ一旦帰ろう。みんな俺の周りに集まってくれ。」
俺は皆を連れて商会に”領域転移”した。
大成功で幕を下ろせて本当に良かった。
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