第142話 魔法国家

翌朝


俺は早めに王宮の門前に向かって屋敷を出た。




『”転移”で移動してもいいが執事が一緒にいるからな…時間が惜しいけど馬車で移動するか。』




それに魔法国家はまだ行ったことがないので、”転移”に失敗したら大変だ。


そんなことを思っているうちに門に着くと、執事は既に到着していた。




「おはようございます。」




「ああ。すまない、待たせたか?」




「いえいえ。ちょうどさっき来たところでした。」




「そうか。じゃあ行こうか。」




「改めまして私はヨークと申します。以後お見知りおきを。」




「俺はダグラスだ。よろしく頼む。」




その後ヨークと王宮の中に入り、馬車を適当に選んで出発した。




ちなみに馬は馬でもシーザスホースDという温厚な魔物だそうだ。


見た目は前世の馬と大して変わらないが、角が日本生えている。




「…それでヨーク、到着予定は何時だ?」




「そうですね…幸い街道が空いているようですし三日ほどかと。」




「…そんなに近いのか?」




「はい。何せ隣国ですから。」




知らなかった。


以前見た世界地図だと、確か山を挟んでいたはずだ。




「…以前間に山があったりしなかったか?」




「ええ。と言っても数年前にキース様が崩しなさったんです。」




「なるほど…」




…それにしても馬車の進みが遅すぎる。


普段魔法を行使して時速100kmほどで移動している俺にとってはまるで亀に乗っている気分だ。




『…もう我慢できない!!』




俺はシーザスホースに最大限のバフを付与した。


すると、今までの五倍以上の速度で走り始めた。




「…え、うわあああああああ!!!!」




隣でヨークが非常に驚いている。


俺はそれを見て笑ってしまった。




「ダ、ダグラス様!!今までこんなことはありませんでした!!何かなされましたか??」




「ああ、ちょっとな。」




シーザスホースは良くても馬車の方が先程からみしみしと音を立てている。


俺は馬車全体に結界魔法”結界作成”で風よけ用の結界を展開した。




「…え?振動が収まっ…た?」




先程からヨークの百面相が見られ、俺は久しぶりに大笑いした。


そんなこんなで馬車は進み、夕暮れ時に何とか魔法国家にたどり着いた。




そこら中が魔道具で溢れかえっており、外灯から噴水まで全て魔道具を使用していた。


まさに魔法国家といった街並みだ。




「…ところでダグラス様、先程は一体何をなされたんですか?」




「この際だから言っておくが…俺はただの剣士じゃない。」




「え、ええ。武闘大会を見させていただきましたが…二刀流剣士でしょう?」




「それもそうだが…本職は魔法剣士だ。」




「ええええ!?!?」




「さっきはシーザスホースに支援魔法を付与したんだ。」




「そうだったのですか…まさかあれほどの剣の腕を持っていて魔法も使えるとは…夢にも思いませんでした。」




こんな有能で面白い人材を持っているのに、どうして武闘国家はなかなか財政難だったのだろうか。


それだけ国王が愚かだったということなのだろう。




「今日はもう遅いので謁見は明日にいたしましょう。」




「ああ。」




「宿はもう用意してあります。行きましょう。」




付いていくと、目的の宿は超高級宿で、そのうえ部屋はVIPルームだった。


…こんな贅沢な宿に泊まったのは初めてだ。




「ヨーク…支払いは…?」




「武闘国家の金庫から持ってきましたのでこちらでお支払いいたします。」




「…ばれないか?」




「ええ!…おそらく。」




それから俺は就寝時間まで宿を抜け出し、街を見て回った。


料理の売店以外は魔道具店や魔法書を取り扱う本屋ばかりが立ち並んでおり、魔法に興味がないと一瞬で飽きそうだ。




『このまま留まって魔法の研究をするのもありだな…』




これほど多くの本が蔵書されているのなら、希少な魔法書の一冊や二冊は埋もれていそうだ。


まずは街の中央にある魔法図書館の全書物を読破するのも一興だろう。




『…まあそこまで読書は好きじゃないがな。』




この世界の魔法書は前世でいうところの教科書や研究論文のようなものが多く、なかなかに難解だ。


そのためスキルをフル活用しても結構な時間と労力が必要になる。




『…やっぱり今度時間が空いた時にするか。』




明日の謁見に備え、早く就寝した。




ちなみにVIPルームのベッドはSランクで、普段使っているAランクのベッドとは比べ物にならないほど安眠できた。


まさかランク一つでこれほど差が出るとは思わなかった。

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