第117話 噂
「ダグラス様、この森に残ってくださいませんか…?」
フェンリルが仲間になり、帰ろうとしていた頃エイミが涙目で訴えかけてきた。
「…どうしてだ?」
「あと少しでいいんです…一緒に居たいです…!!」
屋敷に戻ったところでやることは魔物の生態研究くらいしかない。
それなら精霊の森内部でもできるので、残ってもデメリットは無いだろう。
「分かった。ただ、外に用ができたら出ていくがいいか?」
「はい…ありがとうございます…!!」
しかし”ピン立て”した魔物の研究は既に終わってしまったので、新たに被験者を探す必要がある。
「森に籠る前にやっておきたいことがあるから先に行ってきていいか?」
「はい!じゃあ先に中で待ってますね。」
「ああ。」
正直快適さは森の方が断然いいので、ずっと森の中に籠っていたい。
何か問題が起こらない限り森を拠点にしてもいいかもしれない。
「じゃあ私とフィンは神話生物の情報を集めながら武者修行の旅に出てくるわ。」
「ああ。討伐は俺も参加するからその時はここに来てくれ。」
「分かったわ。じゃあまたね。」
「ああ。また。」
リヴェリア達を見送ったあと、俺も早速行動を起こした。
『とりあえず今まで確認した魔物すべてに”ピン立て”するか。』
ヴァ―リ領、王都、海上都市、鉱山都市、山岳都市、武闘国家と今まで拠点にしたところを回った。
そして、合計56種の魔物にピンを立てた。
『思ってたより多かったな。まぁその方が多くの結果を得られるからいいか。』
これで外の世界に用はなくなったので精霊の森内部に”転移”した。
今度は何かに阻まれずに転移できた。
やっぱりあの時はリヴェリアがいたからできなかったようだ。
「おかえりなさい!!」
「ただいま。それで、今日からお世話になるわけだがどこに住めばいいんだ?」
「そうですね…あの、ダグラス様さえよければわたしの家に泊まりませんか?」
エイミの家は集会所を兼ねているためとても広い。
よって、研究する際に少し物が散らばるので都合がいい。
「そうだな。じゃあ邪魔するよ。」
「はいっ!!」
それから50日ほどが過ぎた。
最初は文化の違いから食事や睡眠など、色々苦労した。
しかし、今となってはまるで老夫婦のように息があった行動ができるようになった。
魔物の研究結果をまとめると、
1.Aランク以上の魔物は基本的に意識を持っているが、それに感情は伴っていない
例:)ハイオークAの狩りは仲間を利用し合っており、死んだ仲間がいても悲しまず食料にしていた
2.獣系の魔物は比較的賢い
例:)ウェアウルフはBランク魔物だが意識を持っており、狩りに戦術を使っていた
3.魔物はSSランク以上のみ、魔族は全員感情を持つ
例:)四神や海龍、真祖やインプ
3の結果により、俺は今まで感情を持つ者を虐殺していなかったことが分かって安心した。
まだ罪は犯していなかったみたいだ。
「ダグラス様、今お茶を用意したので一緒に飲みませんか?」
「そうしようか。」
お茶を飲んでると、何やらエイミがもじもじとしていた。
「エイミ、どうかしたのか?」
「あ、あの…研究が終わったってことはここから出て行ってしまうのですか?」
「…考えてなかったな。」
「ダグラス様は魔物の研究をなさっていますよね?」
「ああ。」
「実は外のことなんですけど、聞いてほしい噂話があるんです。」
そういえば研究に没頭していて外のことを完全に忘れていた。
「実は…聖王国で勇者召喚の儀式が行われたらしいんです。」
「勇者…!?本当か!?」
勇者が現れたということは、近い将来に魔王が現れるということだ。
御伽噺や歴史書によるとこの世界がは絶望に見舞われる、即ち魔王が世界を淘汰すると必ず勇者や英雄が現れる仕組みになっているらしい。
「詳細は分かりません…ただ、夜に巨大な魔法陣が描かれたと思ったら光の柱が現れたらしいです。」
「それは…本当に御伽噺の勇者が現れたときと同じ描写じゃないか!!」
「はい…そして過激派の魔族たちが魔王因子を持つ者を血眼になって探しているそうなんです。」
「なっ…!?」
魔王因子とは、魔王になる素質の持ち主のことだ。
ちなみに他にも勇者因子や英雄因子などがある。
「もしその魔王因子を持つ方が過激派と同じ思想の持ち主だったら…」
「…厄介なことになるな。」
魔王の誕生は魔王因子の持ち主が何らかの条件を達成した時で、過激派が協力したら勇者が成長する前に魔王が君臨してしまうのだ。
そして勇者が倒されたら、世界が恐怖に包まれるのは時間の問題だ。
『世界規模の大戦に発展しなきゃいいがな…』
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