第111話 生態研究
「…私よ。入っていいかしら?」
「あ、ああ。」
リヴェリアの声でふと我に返った。
「部屋に籠ってからもう2日目よ?…何かあったの?」
そんなに経っていたのか。
途轍もない罪悪感に苛まれ、自己嫌悪をしていた。
「いや…ちょっと今後の方針を考えてて…」
”冷静”スキルのおかげで自分の感情をコントロールできるようになっていてよかった。
そうでなければ余計リヴェリアに心配をかけてしまっていた。
「そう…それならいいんだけど…ちゃんと食事はしてる?」
「ああ、いや。忘れていた。」
「そんなことだろうと思ったわ。屋敷のメイドさんたちが作り置きしてくれてるわ。とりあえず食べなさい。」
「ああ。」
生活魔法”クリーン”と”リフレッシュ”で身体を清潔にし、食堂に向かった。
すると、パンが乗せられた皿の下に何か紙が挟まっているのを見つけた。
『…俺宛か?』
紙を開いてみると、それは師匠とカルファからの置手紙だった。
「ようダグラス、もう大丈夫か?俺とカルファはそろそろ滞在期間も終わるしパーティのところに戻る。何があったのか知らんが…元気出せ!!自分の考えを信じて突き進め!!!また今度な!! カイル」
「ヴァンパイアの件で何かあったみたいだけどもう大丈夫か?多分疲れたんだろう。観光とかに行って気分を晴らすといいさ!!また今度どこかで会おう! カルファ」
『二人にも心配かけたな…』
仲間の温かさを感じ、気持ちが少し軽くなった。
そして、それと同時に今後の方針を確定した。
「ダグラス、神話生物の件だが…やめておくか?」
「いや、辞めなくていい。続けてくれ。」
リヴェリアと討伐する神話生物は”悪”属性で、今までにたくさんの酷いことをした前科がある。
そのような奴が相手なら、俺でも躊躇せずに倒せるだろう。
「…分かったわ。”悪”属性ではないが、神獣フェンリルが見つかったの。」
「フェンリルか…!!」
フェンリルと言えばファンタジーでドラゴンの次くらいに有名ではないだろうか。
是非仲良くなって”テイム”を施したい。
「それで、神話生物を倒す仲間にならないか誘いに行こうと思うの。」
「分かった。いつ行く?」
「三日以内には出発したいわ。場所は精霊の森よ。」
「じゃあ二日後でいいか?明日一度そこに下見に行って”転移”の用意をしてくる。」
「分かったわ。ありがとう。」
名前からしておそらく精霊が生息しているのだろう。
一昨日習得した”精霊魔法”は精霊と契約することで真価を発揮するので、是非契約したい。
「まだ昼前だけど今日は何するの?」
「魔物学の研究かな…」
「そんな難しいことやってたのね!!!尊敬するわ!!」
「そんな大袈裟な…」
リヴェリアがとても驚き、キラキラした目でこちらを見てくる。
もしかしてリヴェリアなりに部屋に籠っていた俺を励まそうとしているのだろうか。
「そんなことないわよ!!!魔物学は各国の宮廷魔法師が集まってなんとか研究している分野なのよ!!!それを一人でやってるだけでもすごいわよ!!」
「そうだったのか…」
意外な事実に驚いた。
確かに今までに読んだ魔物に関する書物は全て、出版名が同じ名前だった気がする。
「じゃあ頑張ってね!!私が必要になったらいつでも呼んで頂戴!!!」
「ああ。ありがとう。」
それから俺は”転移”で近くの森林フィールドに赴き、スライムとゴブリン、オークに”ピン立て”をして帰宅した。
そしてそれぞれの魔物を見るため”千里眼”を行使した。
『まずはスライムを見てみるか。』
ぽよんぽよんとジャンプを繰り返して移動している。
その姿は正直愛らしく、癒される。
『食事は植物から動物の死体、虫まで…雑食なのか。』
動物の死体の消化に時間がかかっているとき、背後から一匹のゴブリンがやって来た。
すると、スライムは食事を中断して茂みに隠れた。
『魔物同士でも襲われるのか…スライムも不憫だな…』
しかし、自分より強い魔物からは逃げるのにどうして人族を襲うのだろうか。
試しにスライムの前に人形を”転移”させてみた。
もちろん無反応だった。
この人形に”偽装”を行使して人間にすると、急に襲い掛かってきた。
『どうしてだ…?』
宮廷魔法師の本によると、”魔物は邪神が生み出したもので、善なる神が生み出した人間を殺すことで復讐しようとしているのではないか”とのことだ。
おそらくその考えは正しく、知性を持たない魔物は洗脳されているのだろう。
『じゃあどうして四神や海龍はその洗脳が無かったんだ?』
考察するに、高度な知性を持ったことで自我が生まれたからだろう。
アイデンティティの確立が洗脳を解く鍵なのかもしれない。
『スライムからデータはもう取れなさそうだな。ゴブリンに移行するか。』
結論から言うと、ゴブリンは少し知性を持っているものの、弱者を痛めつけることを楽しむ最低な種族だった。
そしてスライムと同様、人間を見るや否や血相を変えて襲い掛かってきた。
『やっぱりゴブリン程度の知性じゃ洗脳は解けないか…』
オークはゴブリンよりは知性があるものの、食欲と性欲しかないようで、食べて雌を犯してを繰り返していた。
時には死んだオークも躊躇なく食べていた。
「ダグラス、そろそろ夕食の時間だけど一緒に食べないかしら?」
「食べよう。今向かう。」
時間があっという間に過ぎたが、十分なデータが取れたので満足だ。
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