プリンと、『typewriter』
「うーん、音程やっぱりキツかったかな〜」
「すいません……」
「あっ、いやー、ボカロのつもりでいつも通りに作っちゃってさ……相当高いもんね、この曲」
罰ゲームの女声配信からしばらく経ち、『ライムライト』の活動にも少しずつ慣れてきたかな、というある日のことだ。
『デモ完成!!送るね!!褒めて!!』
というメッセージと共に一つの曲がAyaさんから届いてから、3日。土曜日で休日、綾さんも都合がついたということで、『ライムライト』のスタジオで練習しに来ている。
「高いところは出ることは出るんですけど……かなり急にファルセットに入るので、それがキツイですね」
「うん、聞いた感じそこだよね、やっぱり」
「練習あるのみっすね……ボイトレの先生も運営さんに付けて頂きましたし」
そう、しばらく前から『ライムライト』運営のスタッフさんが手配してくれたボイストレーニングに通っているのだ。今のところ最大の成果は、女声、もといハイトーンが安定したことだろうか。
「音程完璧なパートもあるし、休憩終わったら声に表情も付けながらやってみようか!」
「そうですね、Aメロはいけそうです」
あ、そういえば……と、Ayaさんに質問してみる。
「ところでなんですけど……曲作るの、めっちゃ速くなかったですか?東方さんが『できた〜』って送ってきてから、そんなに経ってない気が」
「そうだよ、めっちゃ速かったんだから!スタッフさんは『あっ、速かったっすね』みたいな、かるーい感じだったけど!!」
とAyaさんがキレ気味に言うと、スタッフさんがどこか行った……と思ったらすぐに帰ってくる。何だ……?と思っていると、 Ayaさんにプリンを献上しているのだった。
「えっと……僕の分……」
と聞くと、スタッフさんは無駄にキッパリと言うのだった。
「tamaさんは、練習に目処が立ったらです」
横暴かつ非情だ……とはいえ、早く歌えるようになりたいのは本当だ。別にいいもん、練習するもん……とヘッドホンを取ろうとすると。
「はい、あーん」
と、スプーンを僕に向かって綾さんが差し出していた。
「「へっ?」」とスタッフさんとユニゾンで思わず聞き返してしまう。綾さんは苦笑して、
「いやー、tama君ウチの弟と何か似ててさあ……
あ、そういえばウチの弟、『√』の3人目のつぶやいたーフォロワーらしいよ」
と言う。ファンそんなところにいたの!?弟かぁ、そういえば小さい頃お姉ちゃんが欲しかったなぁ……などと思いながら、
「後で貰うんで、綾さんが食べちゃってください」
と遠慮するも、
「遠慮すんなよ少年ー!ほらほら、これ食べて頑張れ!」と口元に持ってこられてはこれ以上固辞もできない。
「じゃあ、頂きます。……食べたらまた練習再開しましょう」
控えめな甘さが舌の上で溶けていき、よし、やるかという気持ちが出てくる。
ヘッドホンを着けて、再生ボタンを押す。厳しいかもだけど、今日中に形にする、と心の中で呟いてから、僕は練習を再開したのだった。
曲ができたことで、僕が歌の練習、夜月と朝はぜ先生、東アニの人達がイラストとMVの制作に入っている。僕が足を引っ張るわけにはいかないし、楽しみにしてくれている人達の期待と想像を超えられるように頑張らないと、だ。
そして、発表はまだなのだけれど、ユニット名がつい先日決定したのだ。『ライムライト』と韻を踏んで、『typewriter』という名前になった。スタッフさんと共に通話を何度も重ねて決まったのだけれど、いい名前なんじゃないだろうか。あとは、曲を仕上げるだけである。
そして、この『ライムライト』発の僕たちのユニット、『typewriter』の初めての曲は、本当に……本当に大きなヒットを記録することになったのだけど、それはまだ誰も知らない話だった。
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作者より
今話もお付き合い頂き、ありがとうございました。BUMPの新曲をぶっ続けでかけ続けているもろ平野です。めちゃくちゃいい曲なので、ぜひ。
それではまた、お付き合いくださいませ。
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