第272話 叶わぬ

玄関に真新しい靴を見つけた。子供の履く靴だ。が、この家に子供はいない。どうしてそんなものがあるのかしら。


よくよく見れば覚えがある。わたしが小学生のころ履いていた靴だ。履いていた、というか履き始めた矢先、失くしてしまった靴。学校で失くし、その日は家まで上履きで帰った。買ってもらったばかりで履くことそれだけで嬉しかった。なのに失くしてしまって、泣きながら帰った。


どうして今ごろになって、失くしたそのままの真新しさでここにあるのだろう。泣いている小学生のわたしに届けてあげたいくらいだが……。


わたしは靴を手に取り、三和土に投げつけようとして……出来なかった。

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