第112話 無駄話
「夕方には雨が降り始めるので折りたたみ傘をお持ちになったほうがいいですよ」
誰の声かと思った。どうやら部屋にある置時計のようだ。天気予報の表示機能がある置時計である。それにしても音声で知らせる機能まであるとは知らなかった。
その日の夕方、結局雨は降らなかった。
「昨日は予報をハズしてしまい申し訳ありません。
今日の予報です。肌寒い一日となるので羽織るものをお持ちになったほうがいいですよ」
その日は暑かった。
「またハズしてしまいました。悔しい限りです。今日こそは当ててみせます。
本日の予報。晴れ。間違いなく晴れます。この気圧配置で過去に雨が降ったことなんてありません。絶対です。折りたたみ傘なんて邪魔になるだけです」
その日、激しい夕立になった。
「言い訳になりますが、暖かい空気があの勢いで入り込んでくるのを予測しろというのが無理なんです。過去のデータにそんなものはなかったんですから。本当です。
今日こそはリベンジ。当ててみせます。本日は晴れ。日本全国晴れ。ドーンと高気圧が頑張っていますから。絶対大丈夫」
確かに晴れた。
「やったー! どうです、当たったでしょ? 間違いないんですよ。最新の気象科学の凄さといったらですねえ……」
よほど嬉しいのだろう。自慢話が止まらない。当てた興奮のせいか、その日の予報はしないまま置時計の話は終わってしまった。
ま、予報なんて端っから当てにしてないからいいけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます