第56話 アトラクション「ぜんざい公社」

落語のテーマパーク「寿限無」にやって来た。お目当ては「ぜんざい公社」。このアトラクションがたまらなく好きである。


「寿限無」の中でもひときわ高い建築物。これが「ぜんざい公社」。ワクワクしながら入口に。

「なんの用だね」

まずは警備員に止められる。なんの用もこんな用もぜんざいを食べるに決まっている。用向きなんて分かりきっていることなのに止められる。ぜんざい公社はこうでなくては。

「すみません、ぜんざいを……」

必要以上にへりくだる。警備員は顎で“行ってよし”の許可を出す。しびれる、この横柄さ。


まず受付で用向きをいうと6番窓口へ行けと言われる。そこで本人確認をし住所・氏名・家族構成などぜんざいとは関係のないことを問われ書類を作成する。この無駄な書類を作成する馬鹿馬鹿しさに笑いがこみあげる。


8番窓口でお金を納めたあと、ふたたび6番窓口へ行く。次は6階で健康診断をするよう指示される。待合室は結構混んでいるが、ここには高座があり噺家が落語を聞かせてくれるので退屈しない。演目はもちろん「ぜんざい公社」。小南の「ぜんざい公社」に馴染んでいる私には今日の噺家では物足りない。


健康診断が終わり別館まで3キロ歩く。この別館でようやくぜんざいが食べられる。半日がかりである。


「ホント物好きだなあ、お前は」

「今度、いっしょにどうだい?」

「それのどこが楽しいんだ、馬鹿馬鹿しい。つきあってられるか」

「その馬鹿馬鹿しさがいいんじゃないか。落語のテーマパークなんだから当然だろ」

「にしても、どうかしてるぜ、まったく」

「一度行ってごらんな、世の中、変わるから」

「どう変わるんだい」

「楽しくなるね」

「そんなところに行かなくったって、十分楽しいさ」

「いやいや、そういうんじゃなくてね。たとえば会社で理不尽な目にあっても『ぜんざい公社』の楽しさを思い出せばさ、ああリアル『ぜんざい公社』だってなもんよ。上司に怒鳴り散らされても、もう笑けてくるよ。世の中が馬鹿馬鹿しさのテーマパークに思えてくるからさ」

「長生きするよ、お前は」


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