第81話 『解析するアナリシス』

「(隻翼を仕舞った?機動力を上げている?)舐めているなんて殺すよ?」


岸辺玖の行動に対して怒りのこもった口調で告げる夜行武光ではあるが、その内心は疑心で溢れかえっている。

岸辺玖が隻翼を手放して何を得るのか。

考えられる事は移動速度の上昇だろう。

隻翼だけで戦う事は難しいと判断すれば、必然的にそれを捨てての行動に出る筈。


「(いや、俺の考えこそブラフである可能性もある。あの男の行動は全て俺を騙す為にしている事かも知れない、例えば……隻翼しか使わないと思わせておいて別の狩猟奇具を持ち合わせているかも知れない)」


岸辺玖がわざわざ隻翼を畳んだのは、他の狩猟奇具の使役をする為に、不必要な重たい隻翼を外したという事もある。


「……まあ、そういうワケだ、一撃で終わらせてやる」


思考を続ける最中、岸辺玖が地面を蹴って加速した。

その行動に反応する夜行武光は狩猟奇具を構える。


「(どちらにせよ、抜刀してしまえば問題ない。相手がどれだけ早く移動しようとも、それよりも早く切り捨ててしまえば良いだけの事ッ)」


夜行武光は突っ込んでくる岸辺玖に向けて狩猟奇具を引く。

半分押し込んだ状態で、すると暴発し加速する斬撃の刃が岸辺玖に向けられる。

真横から胴体を二つに割断する一撃。

喰らえばいくら再生能力の高い岸辺玖でも一たまりではないだろう。

だが、岸辺玖の眼は冴えていた。

斬撃の刃に対して身を屈めてその一撃を回避したのだ。


「なッ」


これには夜行武光も狼狽した。

何故この攻撃を避ける事が出来たのかと、思考が一瞬でその感情に塗り潰される。


「(アイツは二つの狩猟奇具を使っていると思っていた。『伏正』ともう一つの斬撃を飛ばす狩猟奇具の二つだと、けど、アイツは狩猟奇具を別のものに変えている様子は無かった。つまり二つの狩猟奇具を一つで使う傾向にある)」


岸辺玖は、先程の夜行武光が狩猟奇具を使役した時に、狩猟奇具を交換せずに『伏正』を発動していたのを見ていた。

二つで一つ、狩猟奇具の器の容量的にそれが出来るのかどうかは分からない。

それでも、その狩猟奇具を使い分けている為に、斬撃状態と伏正状態の区別を見分けられた。


「(そして斬撃の方はトリガーの引き方が甘い。半分だけ押し込んだ末に爆発的な斬撃が飛び込んで来た、それが発動条件なら、其処を注視して確認すれば回避も可能)」


目が狩人よりも良い岸辺玖だからこそ。

彼の狩猟奇具の違和感に気づけた、そして、半分だけ押し込んだ末に、攻撃が来る事も理解出来た。

斬撃を回避した岸辺玖はそのまま夜行武光に接近し。

夜行武光は狩猟奇具の再展開を行うが、それよりも早く、岸辺玖の拳が夜行武光の顔面を殴り倒した。

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