第79話 『戦闘開始バトルスタート』

岸辺玖の隻翼が生え出して微動だにしない表情を浮かべながらも、微かな動揺を心の内に開かせる夜行武光。


「(『化漿薬』なしで化身になる事が出来るのか、驚きを隠せないな……いや、尤も驚くことと言えば、奴の再生能力だろう)」


首を切っても、切った箇所がくっついて傷を塞いでしまう。

喉元を裂いて瞬時に治るのであれば、何処を斬っても同じ事だろうと夜行は思った。


「(あの野郎、俺を殺そうとした事は癪に障るが、出来るな……、遠距離から的確に首を狙って来るなんてよ)」


怒り心頭中ではあるが、それを表に出して怒る程、彼は未熟ではなかった。

相手の情報を咀嚼し、それを飲み込んで自分の戦闘を有利に進める為に頭を使う。


「玖、手を貸そう」


岸辺玖の側に近寄って、伏見清十郎が狩猟奇具を展開させる。


「清十郎。手を出すなよ……、いや、お前にはやって貰いたい事がある」


岸辺玖は伏見清十郎の加勢を断った。

その代わりにと別の事を彼にお願いする。


「コイツ、候補者だろ。ならもう二人同行者が居る。俺はコイツと一対一サシでやりたいが、外野からちょっかい掛けられるのが一番厄介だ。何よりも、そいつは透明になれる狩猟奇具を持ってやがる」


周囲を見渡す伏見清十郎。

岸辺玖が防御をした時に攻撃を受けたのは、夜行武光が攻撃した訳ではない事を知る。


「けど案外間抜けだな、地面を見てみろよ」


岸辺玖は笑いながら地面を指す。

地面は砂であり、足跡が刻まれている。

岸辺玖の近くには足跡が多く残っていて、夜行武光の近くに、真新しい足跡が築かれていた。


「(嘘ですよね……一応は暗闇なのに、見えるんですか?)」


榊色子は息を潜めながら驚愕していた。

岸辺玖や伏見清十郎ならば、夜中でも薄暗い光が灯す様に周囲が見えている。

おそらくは改造した故の性能なのだろう。


「そうか、なら同行者をなんとかしよう」


「え~戦う感じぃ?しょうがないなぁ」


溜め息を吐きながら狩猟奇具を取り出す。

夜行武光は岸辺玖の顔を見つめて話を続ける。


「案外余裕なんだね、首を切ったっていうのにさ」


「あぁ、正直な所、凄い技だが……それ以上に首を切られてムカついたからな、だから俺の手で絶対にぶっ殺す、そう思っただけだ」


岸辺玖の発言を余裕と捉えた夜行武光は失態だと言わんばかりに笑った。


「選択を間違えたね」


「間違えたのは俺を狙った事だ」


軽口を戦う。

静寂。ゆらりと蠢く隻翼。

手から離れ出す狩猟奇具。


「しゃあッ!」


「っ!!」


両者行動を起こし戦闘が始まる。

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