第35話 『包帯巻いたバンデジ』
東王子月千夜が消えて、獅子吼吏世も居ない。
二人は自家に戻って作業をしているらしいが、岸辺玖にとってはどうでもいい事だった。
ただ目の前に立つ自分を殺そうとする角袰に集中出来れば、それで十分だった。
彼女たちが居なくなって三日程。
岸辺玖は包帯を巻いた状態で角袰との命がけの戦闘を行う。
「……」
ぐるぐると鎖を振り回して岸辺玖に向けて放つ。
「(鎖付きの鉄球、鉄球に触れたら爆破する。回避をしても手足の様に動かして確実に当てて来る)」
ならば、岸辺玖は狩猟奇具『伏正』を解除する。
鉄球を回避すると同時、鎖の穴に向けて『伏正』を発動すると、鎖の穴に『伏正』の刃が突き刺さり、そのまま地面に突き刺さる。
これで、鉄球は自由に動かす事は出来なくなる。
そのまま、岸辺玖は素手の状態で角袰に向けて接近する。
狩猟奇具はなし、完全に狩人の性能のみで角袰を倒そうと考えている。
「ぺしゃんこになれ……『荒桝』」
角袰は鎖を捨て、スカートのポケットから別の狩猟奇具を取り出すと同時、トリガーを引き抜いて角張った金棒を作り出すと、それを振り下ろして岸辺玖に向ける。
頭上を狙い、確実に避け難いタイミング。
運が悪ければ頭部が割れて即死する可能性すらある攻撃は、流石に角袰も死んだかも知れないと他人事の様に思う程だった。
しかし、岸辺玖は手を挙げて攻撃を受ける準備をした。
両腕を捨てる算段だろうか、腕を犠牲にすれば頭部は残ったままだが、両腕が無い状態で角袰を倒せる程、彼女は甘くはない。
「(荒桝は接触すると衝撃波を発生して対象を吹き飛ばす……腕でガードをすれば両腕の骨が粉微塵になる……ならどうする?)」
荒桝が岸辺玖を叩く。岸辺玖はその一撃を受け止める。
腕が壊れたと思った。だが、角袰はその攻撃が何故か軽いと思った。
当たり触りが、骨を砕く感触でも、肉を叩き潰す様な感触でもない。
それはまるで、硬いゴムを殴る様な、妙な反発感があった。
「(簡単だ、両腕で受け止めなければ良い)」
「………包帯」
岸辺玖の両手には橋の様に包帯が絡まっている。
金棒である荒桝を、両手の間に作った包帯の橋で受け止めたのだ。
「(何事も使い方次第だ防御も、攻撃もなッ)」
岸辺玖は荒桝を弾くと共に包帯を弾く様に飛ばす。
先端が妙に重たいのは、其処らの石が木でも巻き付けた為だろう。
角袰の太腿に絡まる包帯を、思い切り引くと共に彼女はバランスを崩して背中から転ぼうとする。
「……っ」
しかし狩人としての反射神経を舐めてはいけない。咄嗟の襲撃でも、体は倒れない様に動く。
だが、それは無論、相手が追撃しなければの話だ。
彼女がバランスを崩れた所を見逃さず、岸辺玖は詰め寄って彼女の上に飛ぶように跨ると拳を彼女の顔面に突きつけた。
「……軽く一週間、結構時間が掛かったが……まあ、ノルマは達成、だな」
息を荒げながら、岸辺玖は勝利を確信した。
角袰に一撃でも加える事が出来れば、岸辺玖の勝ちである。
「……私の負け」
角袰は潔く負けを認めた。
これによって、岸辺玖の改造手術が決定的となった。
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