第29話 『医療するリペア』
眠る岸辺玖は昔の事を思い出していた。
小学生の頃、風邪を引いていた彼は祖母に看病されていた。
熱くなった体から流れる汗が冷たくて、時間が経つと共に汗を祖母が拭ってくれる。
額には濡れた手拭いがあり、祖母が岸辺玖の為に何度も何度も、温くなった手拭いを冷たいものに取り換えてくれる。
風邪に対する辛さはあったものの、祖母が作ってくれる卵の入ったおじやや、だいこんの蜂蜜漬けを食べさせて貰ったりと、偶の風邪ならば、と思える程だった。
何よりも、熱が下がったかどうか、彼の額に手を添えた時、その冷たさが心地良かった。岸辺玖は、今、既に亡くなっている祖母の事を思い出して、そして目を覚ます。
「……ばあちゃん?」
戯言の様に祖母を口遊む、霞んだ目が二度三度の瞬きによって視界が良好となって、其処に移るのは一人の女性だった。
「えあ、?あ、あの、おばあちゃんじゃ、ないです」
岸辺玖から手を離して、オドオドとした様子で彼から離れる長身痩躯の体格に恵まれた女性。
成人した女性であるのだろうか、しかし、その服装はセーラ服であり、サイズが合ってないのか、豊胸した胸によってちらちらと腹部の肌の色が見えていた。
「……誰だ、テメェは」
岸辺玖は気怠さを覚えながら体を起こすと、女性は慌てた様子で敵ではないと両手を振った。
「あう、えと、ご、ごめんなさいっ、あの、お眠りの最中に、とんだ邪魔をしてしまいました……」
女性の声は少しだけ幼い。何者なのか問おうとすると、彼女は先に答えた。
「
角家の苗字が出て来て、岸波玖は目を見開く。
もしも彼女が名前だけ言っていれば、角袰の姉だと思っただろうが。
「角……妹って、
その大きさは、角袰よりも大きく、岸辺玖よりも高い。
年下とは思えない豊満な肉体、全身に肉が凝縮されているのかと思う程にむっちりとしていた。
「よ、よく言われます……あの、それで」
「何の用だ?」
岸辺玖はベッドの上に座りながら言う。
角彩はあのぅ、と何とも気弱な少女な様子で話を続ける。
「ち、治療を施していました」
「治療?」
恥ずかしそうに顔を赤らめる角彩。
岸辺玖は彼女の視線に気が付いた体を見ると、彼の体には包帯しか巻かれておらず、衣服といったものはまったくもって纏っていなかった。
「ご、ごめんなさい、あの、治療は既に、終わってます、あの、お姉ちゃんが、やり過ぎたから、治して来いって、言ってたので……勝手に処置をしてしまいました、あの、ごめんなさい」
ごめんなさい、と言われても、岸辺玖はそんな謝罪を聞き入れる事は無い。
それよりも、彼女が治したという怪我を見て驚きの表情を浮かべていた。
基本的に狩人はどの様な重傷でも最大で一週間もあれば完治し復帰出来る。
最低でも三日程の治療が必要であり、医療器具が揃って環境も良ければ一日で済む。
しかし、岸辺玖が気絶して目が覚めるまでは僅か五時間ほど。
その間で彼を治したとすれば、それは名医を超えた神の領域だった。
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