第45話 炎の妖精
しかしこのダンジョン、モンスターはそこまで多くないようである。
部屋を何度も散策してみるが、それほど価値のあるものは何も発見出来ないでいた。
確かに、これも不人気理由と言うか―――これだけしっかりした構造の城でありながら副産物がほとんどないという点も不気味だ。
暫くして、ある部屋の一室のソファーに腰かけた俺は一息つく事にした。
ここはモンスターの湧きがなく、密室でモンスターの侵入してくる様子はない。
「それんしても、このまま座って大丈夫なソファってなんだ」
『ダンジョン故なのでしょうが、不気味ですね』
『不気味すぎてさっさと出たいですけどね? なんというか、何もない事が逆に不気味というか』
「確かに」
ダンジョンですら意味不明な宝箱がポツンとある事なんて日常茶飯事だというのに、ここは本気で何もない。
狭い、部屋が多い、モンスターは固く倒しづらい、そりゃ誰も来ない訳だ。
「ふぅ…」
一息付いて、部屋におかれた物を見渡してみる。
ここは書斎なのだろうか? 本棚が数個あり、大きなテーブルが一つと…こちらには向き合ったソファーとテーブルがある。
というか、まて? なんだあれ?
奥のテーブルの上に見慣れない人形の様なものを見つける。
「よいしょっと…これは人形か? いや、違うな…なんだこれ…」
『ほぇ~…よく出来た女の子の人形ですね? 赤い髪で、蝶のような羽が生えた…ってなんか苦しそうにしてません? 生きてますよこれ!!』
「生きてる!?」
言われてみれば、じっくりみると額に汗をかき苦しそうにジタバタとしている。
「ど、ど、どうすれば!?」
『とりあえず、片っ端からポーションをぶっかけましょう!』
「大丈夫か!? それは溺れるんじゃ…」
『も~…仕方ないですね。 私が飲ませてみます』
「頼んだ」
俺と分離したブイは解放された胸部から飛び出すと、羽の生えた小さな女の子の所へ歩み寄る。
それにしても小さい…小さすぎる。
ブイの全長も10㎝程しかないが、ほぼそれと同等くらいの大きさだ。
おっと、そんな事を言っている場合じゃない―――さっさとコンテナを切り離して、ポーションを用意しよう。
1時間後。
『スゥ…スゥ…スゥ…ん…』
症状が落ち着いたのか、小さい女の子はゆっくりと呼吸を始め――目をゆっくりと開いた。
『あ、あれ? 私はなんでここで何してたん…そうだ!? ”あいつら”に追われて…毒の矢を受けて…はっ!? こうしちゃいられないわ! さっさと―――きゃぁぁぁぁぁぁ!!』
『ちょっと待ってぃ! こっちに助けられといてお礼の一つもなしか!? おぉん!?』
距離を取ろうと宙に浮く女の子を、射出した腕のワイヤーで高速するブイ。
一応、先程までは怪我人?だった筈の彼女へ容赦がない。
『きゃぁぁぁぁ! 食べられる! 鉄の巨人と鉄の妖精に!!』
『だ~れが鉄の妖精だ! いや、それは許してやろうじゃないかぁ! っていうか、私達あなたの命の恩人ですよ? なにか言う事があるでしょうがぁ!』
『あ、ありがとう。 けど、それとこれとは別よ!』
『ふふふ、我がアームワイヤーを舐めるなぁ!? このぉぉぉ!!』
『ぐぬぬぬ、ど、どうして!? 魔法が作用しない!? いやぁぁぁぁ!』
それから数十分。
おれはその小さい者達の戦いを見届けた後、テーブルに頭を擦り付けこちらに土下座をする彼女の姿が―――
『ご、ごめんなさい! 助けてもらったのに、逃げようとしちゃって!』
「まぁ、俺は気にしていなって。 別に逃げられ所でどうする事もないしな」
『え~…絶対珍しい存在ですよこれ? データベースに存在していないですから』
「いや、なんていうか関わったら面倒じゃね?」
『えぇそうですよ。 明らかに面倒な気がします、ですから私は何も言う事は無かったのです』
『そ、そうだったのですねお姉さま! じゃ、あっちいけ』
『え? 急に酷くない?』
――――――――――等というやり取りを行っていると彼女は急に名乗り始める。
『という訳で、私は炎の妖精”フレイア”よ! よろしく! そして――こうなったのは数時間前の話――』
『やべぇ、やべぇよ。 こいつ、もうこれまでの話を始めちまったぞ!』
お前のせいだろ、と言いたかったがとりあえず俺は彼女”フレイア”の話を渋々聞く事にした。
『―――という訳!』
『あ~はいはい。 冒険者達に見つかって殺されそうになったところで、この部屋に隠れてやり過ごしたのはいいもののもうほとんど立つ気力も残ってなくてあそこのテーブルの上でもがき苦しんでいたところを私達が助けたと』
『そうよ! 感謝しているわ!』
「『じゃ、そういう事で』」
俺達は満足げな表情でそう告げ部屋を出ようとする。
『ちょいちょいちょい!! まさか私をここに置いていく気!? 正気!? 今の話を聞いて何とも思わなかったわけ!?』
『へぇ~可哀想、知らんけど』
「元気にやってくれよな」
『滅茶苦茶他人事!?』
他人事だと言われても、実際そうなのだから仕方ない。
『じゃ、どうしろっていうんですか?』
『そ、それはそうね…貴方達と一緒に行動する事にするわ! これから!』
「はぁ?」
俺はアーマーの中で心底嫌そうな顔をした。
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