第17話 レベルが全然上がらない件
あのレベルアップから数時間後の事である。 俺は休憩がてら目に入った所に腰を下ろすと妹から手渡されたモンスター図鑑なるものに目を通していた。
「何々? あれはゴブリンメイジっていうのか。 ん~…通常のゴブリンは魔法を使用する事あ不可能で物理のみの攻撃――――なぁ、Z? 俺の見間違いじゃなければ、1階層に居たゴブリンの見た目は”普通”だったよな?」
『間違いありません。 こちらも映像に記録を残しています、よろしければ視聴致しますか?』
「頼む。 もう一度見てみよう」
『了解。 それでは映像の再生を行います』
ピッ!
「ん~…何処からどう見ても普通のゴブリンだよな」
『肉質・動き・形から全ての照合を行いましたが――――間違いなくあれは”通常”のゴブリンで間違いありません』
「しかし、見てたのが俺だけだし…そういう事もあるもんなのかな?」
『理由は不明ですが、一度持ち帰った方がよい情報かと思われます』
「だな。 帰ったら家族に見せてみよう」
『了解』
それにしてもこの”軍用アイテムBOX”とは便利な代物である。
あれだけ倒したモンスターの亡骸をほぼそのままの状態で保存できる小型のアイテムBOXが50機搭載されており、電力による駆動が可能となっている…電力を魔力へ変化する技術―――とてもすごい技術なのだが―――
「オフィスビル並みのエネルギーが消費されるってどれだけなんだ…」
故に軍用車等でも巨大な発電機やバッテリーを積んで初めて運用出来るものらしい、よくもまぁ優香はその辺の事を理解してこれを買ったのか…いや単純に電気で動くから買ったんだろうな。
「まぁ、それを連続稼働出来るこっちもこっちだけどな!」
『問題ありません。 ビーム兵装を充填するエネルギー量よりかは遥かにマシです』
「なんかすまん」
チュートリアルで馬鹿みたいにビーム兵器を使用していた俺が見たら、唖然とする交易に違いないだろう。
なんせ今は電力に頼って、こんなでかいランドセルを背負っているのだから。
エネルギーもこの地球では無限とは言い難い、だからこそ軍用のアイテムBOXは軍の大移動や大型レイド&スタンピードに備え使用する目的としたものである。
それをまぁ…一個人が背負ってダンジョン内へ潜っている訳だがな。
「さて、飯だ飯! Z? 頭部解放!」
『了解。 頭部アーマーを展開致します』
カシュンー!
頭部部分だけが展開すると、俺は洞窟内の臭いを改めて実感する事になる。
「くさっ!!」
モンスターの血の臭いだけではない、何か色んな臭いが混ざった様な不愉快な臭さが鼻を通過する。
なるほど…だから優香は”あんなもの”を俺に持たせた訳か…
「たしか、一番のアイテムBOX内に」
アイテムBOX内の番号を押した俺は”1番”に格納されたアイテムをチェックする。
え~っとこれだ!
『テケテケン。 魔法障壁テント~個人用タイプ~!!』
「!?」
まるで青いタヌキの見た目をしたような奴の音声が俺の脳内に響き渡る。
「お、お前…そんな芸当まで出来たのかよ…」
『音声変化はお手のものです。 冗談はさて置き、魔法障壁テント(個人用)の連続稼働時間は最大で5時間程度と予測されます。最重点は不可―――ですので使用する場面は慎重に選んでください』
「だな」
この魔法障壁テントとは、インスタント魔法なるものが付与されおり魔力を充填可能なカートリッジを接続する事で付与された魔法が発動する仕組みとなっている。
なんでもそれは魔力の高い女性の方が作ったブランド物らしい…個人用であってもお値段は一千万円以上。
「どんだけお金を使ってるんだよ…優香は」
未来への投資だと言い張り優香は色んなアイテムをプレゼントしてくれた、彼女が居なければ俺は今頃この臭い環境の中で飯を食っていたのだろう。
「まさか快適な設備までプレゼントしてくれるとは…」
本来であれば魔法障壁テントの魔力を再充填する事も可能であるらしいのだが…俺には魔力がそもそもないので使い切りだ。
「いずれは買わないとな。 電力を魔力に変換できる装置――――」
『もしかすると開発先のアーマーに備え付けらている可能性もあるかもしれませんよ?』
「いやいや! それは流石にない―――」
だろうとも言い切れないでいた。
「だよな…Z? お前でも派生先のアーマーがどんな機能を備えているか解らないのか?」
『はい。 機能が制限さている可能性があります。 恐らく―――”出来た”のでしょうが、”今現在”はその様な事が出来ません。 ですので、次回開発可能レベルの4レベルまでは何も―――』
「そうか。 まぁ、レベル上げをがんばるか…」
これまで倒してきたゴブリンの数は38体。 以前は5体倒しただけでレベルが上昇した筈なのだが、それから一向にレベルが上がる気配はない。
「こういうのって残り経験値とか見れるもんじゃないのか普通?」
『残念ながらそちらの機能も制限されている可能性があります』
「制限制限…もしかして、まだチュートリアル中だったり?」
『可能性は無きにしも非ずです』
「まじかよ…」
俺のチュートリアルはまだまだ続くらしい。
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