落×雷⑧
蓮にとっても突然のことで、嵐が二人きりで話したいと言う心当たりはない。 とはいえ、今の状況を簡単に受け入れることができないというのも分かる。
「二人きりで話すって、何か怪しいなぁ・・・?」
「いや、全然怪しくなんかないから!」
心泉(涼風)の指摘はもっともだ。 その証拠に、というわけではないが嵐はどこか焦っているように感じた。
「本当に?」
「二人が倒れた後のことを俺はほとんど知らないし! 詳しく聞きたいんだよ!」
「ふぅん・・・」
「と、とにかく蓮を貸してくれ!!」
「ちょッ!?」
嵐は強引に蓮の腕を取り病室を出ようとした。 その力は冗談とかではない本気を感じられる程だ。
「ちょっと待てって! 無理矢理だと危ないだろ!? 分かった、行くから・・・」
「最初から素直にそう言えばいいんだよ」
「全く強引なんだから・・・。 悪いけどちょっと行ってくる」
「はいはい。 いってらっしゃい」
蓮は嵐に連れられ病院の外の中庭までやってきた。 青々と茂る芝が美しく整備され簡単にウォーキングできるように散歩路が広がっている。
「こんなにいい天気なのに人はあまりいないんだな」
幸い周囲にはほとんど人がおらず、屋根のある休憩所までやってくると二人はベンチに腰をかけた。
「それで? 話って?」
「入れ替わっているのは冗談でも嘘でもないんだよな?」
「・・・あぁ。 俺も疑っていたけど、二人共目覚めた直後からそうだったから示し合わせたわけじゃないと思う」
真剣に言う蓮を見て嵐は頭を抱える。 気持ちは分かるがそこまでのことなのだろうか。
「マジかよ・・・。 元には戻らないのか?」
「それは俺には分からねぇよ。 一応何とか元に戻れる方法はないか探そうとはしていたけど。 もう一度雷に打たれてみるなんて無理だし、もしそれをやろうとするなら俺は止めるよ」
「そうか・・・」
「まぁ、無理なら無理でみんなに入れ替わっていることを伝えようかっていう話はしていたかな」
それを聞くと嵐は血相を変える。
「おいおいおい! このまま戻らない可能性もあって、蓮はそれを受け入れるって言うのか!?」
「原因もよく分からないし、治し方なんてもっと分からないさ。 俺は医者じゃないし、もし医者に相談したってこんな不思議なことは医学の領域じゃないって言うんじゃないか?」
「いや、でも、相談してみる価値はあるんじゃ・・・」
「いずれは話す必要はあるだろうな。 だけどこの先ずっとこのままである可能性を否定することもできないだろ」
「そうかぁ・・・。 で、蓮は心泉ちゃん・・・。 いや、涼風ちゃんの外見になってしまった心泉ちゃんに告白をして成功したと」
「あぁ」
確かにその通りなのだが嵐の言い様が何か気になった。
「どうして急に告白なんか?」
「二人が倒れて焦ったんだ。 先延ばしにして後悔することになるくらいなら、今告白しようって」
「なるほど・・・。 突拍子もないように思えるけど、感情としては理解できるわ」
軽く頷く嵐を見据える。
「それで嵐はどうするんだ?」
「・・・」
嵐は考える素振りを見せる。 そして意を決するように話し出した。
「確かに俺は涼風ちゃんが好きだった。 それで蓮に相談した」
「あぁ」
「だけど俺は一目惚れをした涼風ちゃんの外見が好きだったんだ。 それは今でもそうだ。 心泉ちゃんも確かに可愛いとは思う。 だけどやっぱり俺が好きなのは涼風ちゃんの顔なんだよ!」
「・・・」
「いくら中身がそうだからといって、入れ替わった彼女に告白しようとは思えない。 寧ろ蓮が羨ましくて仕方がない!!」
嵐の言葉は酷いように思えるが理解もできた。 涼風と心泉を知らない人間にどちらを可愛いと思うのか聞けば、ほとんどの人が涼風を選ぶだろう。
―――涼風は性格がキツいけど、外見的な話なら学校でもかなりの人気があるみたいなんだよな。
―――正直俺から見ても心泉さんよりも涼風の方がモテるだろうとは思う。
―――外見だけなら、な・・・。
ただ人の感情はそう単純ではなく、誰かを好きだという気持ちがあれば外見もよりよく思えてしまうものだ。 蓮としては心泉のことが好きだったため、中身だけでなく外見も心泉の方が好きだと言える。
―――人間の感情って単純なものだよな。
―――・・・だけど嵐はそうじゃなかったということか。
思春期の男子にとって、異性を好きになる基準で最も大きいのは外見だろう。 蓮だって外見なんてどうでもいいと思っているわけではない。 頭を抱える嵐の隣で蓮は思い更けていた。
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