第三六話 終わり(2)
これまで組織に隠れて
だが火を見るより明らかな危害を味方に加えてしまえば、話は別だ。
それが、万里が反撃に出るのに二の足を踏んでいる要因なのだった。
万里と万里華は飽くまでも敵同士。
ここで反撃に出てしまえば、彼女も応戦せざるを得ない。もし何もせずに万里がドローンや狙撃主を全滅させるのを見過ごしてしまえば、彼女が組織から何らかの責を問われる可能性がある。それは万里としても望むところではない。
(……やっぱり無理か)
《歌姫》を完全に【ICO】から連れ去ってしまうという選択肢は、実は何日も前から念頭にあった。彼女自身も組織からの離反を望んでいるわけだし、万里のセカンドハウスたるあのオンボロアパートには、まだ空室がある。もしも【フォーマルハウト】が彼女を見放すというのであれば――と。
だが、
(間に合いそうにない、か)
こうして密会を襲撃してきたということは、《歌姫》を泳がせて情報収集する必要もなくなったということだ。となると、【フォーマルハウト】の現在地なり動きなりがあちらに漏れた可能性が高い。万里はそんなヘマはしないので、あちらの誰かがどこかで足がつくようなミスをしたのだろう。
(できないことを無理してする必要もない。そっち優先だな)
万里華との、ここ数日ほどの密会が脳裏に甦る。
思えば当初の予定からは大きく脱線を余儀なくされた沖縄旅行だったが、彼女との密会はなかなか新鮮で有意義だった。
しかしそれももう終わりだ。《歌姫》は組織に回収されるだろうし、沖縄から彼女を連れ出すことは不可能。
東條たちの安否確認を優先することにして、万里はその場から離脱することにした。
ドローンと狙撃主による挟撃を横合いに飛び出して逃走する。
山中ではいくらドローンと言えど乱立する木々が飛行の邪魔をするのだろう、あの駆動音が追いかけてくる気配はなかった。狙撃主のほうは言わずもがな、移動しながら狙撃などできるわけがない。
もう少し奴らから距離を取って安全を確保したら、とりあえず東條に連絡でもしてみるかと考え始めたときだった。
「ぬぉっ!」
触れただけで首が飛びそうな凶刃が横合いの木陰から飛び出してきて、思わず万里は疾駆していた勢いそのままに上体を後ろに逸らした。
同時、膝を着いて地面を滑ることで、あわや首ちょんぱの未来を回避することに成功する。
体勢を立て直しつつ、凶刃が飛び出してきた木陰に向けて叫んだ。
「あっぶな! 殺す気か! それとも殺す気だったのか!?」
万里のフルスペックでスライディングリンボーダンスに移行しなければ首が飛んでいたようなタイミングだった。そのせいで日本語がおかしなことになっていたが、前半はツッコミ半分の抗議、後半は百パーセント本気の疑問だ。
気配などなかった。殺気ももちろんなかった。
にも関わらず、それは間違いなく万里を殺そうとする一撃だった。
まるで至近の虚空に何の前触れもなくミサイルが出現し、万里に飛来してきたかのような――。
それを放った主を見上げる。
そこにはカチンと愛刀を鞘に納めながら木陰から出てくる、プラチナブロンドの女性の姿があった。
「いえ、失礼、少々脅かしすぎましたね」
なぜか顔には万里同様、狐の仮面を装着しているのでその
「急に好奇心に駆られまして。貴方はこの練度の攻め手に対しどう対応するのか、と」
非常に得心しがたいものはあった。
あったが、似たような好奇心は万里も抱くことがあるので、数秒ほどこめかみを揉みながら逡巡した結果、
「そっか、好奇心か、だったらしょうがないね」
と受け入れた。
戦意も感じられないので、虚言を
目の前にいるのが呼吸をするように他者の命を奪える女性だということは肝に命じておくことにした。
「で、何これどういう状況? さっきのドローンや狙撃もあんたんトコが?」
「まさか。【ICO】の下部組織同士に横の繋がりはほとんどありませんよ。私が沖縄にいるのもお忍びですし。あれは間違いなく【ストラディバリウス】の人間によるものです」
「ふぅん、だったらここに長居は無用だね。僕ちょっと急いでるんだ。じゃあね」
「まぁそう言わずに」
「ぐぇっ」
早いところ東條たちと合流しようと身を
「なんだよ! 急いでるって言ってるだろ! フォーマルなんとかの奴らの足取りがバレた可能性があるから早く……」
「こちらの用件のひとつもそれに関係してのことですよ」
「……?」
万里は首を傾げ
「とりあえず報告のひとつ目ですが――――」
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