第66話


***

 知らせを受けて、奈村は即座に小野森の自宅に駆けつけた。

 小野森の自宅前には数人の記者が張り込んでいて奈村を見つけるやまとわりついてきたが、それを振り払って門の中に飛び込んだ。

「ああ、奈村さん……」

 小野森の妻が憔悴しきった様子で出迎えた。

「奥様、いったい何が……」

「昨晩はね、いつも通りに元気だったのよ」

 小野森の妻は着物の袖でそっと目元を押さえた。

「きっと……怒らせてしまったのね」

「え……?」

「あの人が倒れているのを見つけた時、土の匂いがしたの」

 奈村は息を飲んだ。

「それは……っ」

「あの人は、ああいうものを怖れる人ではなかったから、きっと、立ち向かったのだと思うわ。そういう人だもの」

 ふふふ、と困ったように笑う小野森の妻に、奈村は声もなく立ち尽くした。

「あの人、今日は緑城町の神社を訪ねると言っていたわ。みくりちゃんのことで、力になろうとしていたのに、こんなことになってしまって……」

 奈村は膝を折って地に頭を擦り付けた。

「申し訳ないっ……」

 とうとう、とうとう、犠牲者を出してしまった。あの、悪霊のせいで。

 小野森は何も関係ないのに。彼はただ、奈村に関わっただけなのに。

「よしてちょうだい。あの人はやられたんじゃないわ。戦ったのよ。だから、後悔などしていないでしょう」

 小野森の妻はきりっと眉をつり上げ、凛とした佇まいで奈村を叱咤した。

「貴方はしっかりとみくりちゃんと潔子さんを守りなさい。そうしなければ、小野森は許しませんよ」

 奈村は頭を下げたまま、ぼろぼろと涙をこぼした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る