第35話 ふたなりになれる魔法はないんだろうか
「そうだっ、お姉ちゃん特訓してたんだっけ? 今」
「はい」
「それもボクたちに言ってくれればいいのにー。手取り足取り教えてあげるよー」
「……」
手取り足取り。こいつが言うとエロく聞こえるのは、俺だけだろうか。
「いえっ、いいのですっ。ヴィエルさんたちとは、学年も違うので、一緒のチームになるとは限りません。でも、敵には塩を送るのですっ」
「……」
自分に厳しく、敵になるかもしれない奴には情けをかける。なんて素晴らしいお心、我らの、いや、俺の聖母様。
「お姉ちゃんは優しいねー。でも、体育祭はシビアにいかなきゃ、優勝できないよー?」
「それでもいいのですっ。お互いの力を知らぬままの戦い! 燃えるじゃないですかっ」
「…………」
こうやって、自分の特訓姿は晒し、見られて笑われるかもしれない。でも、努力する、前を向く、全力で楽しむ。
このべらぼーに可愛い聖母様に賞杯を。
「そうだぞ!」
フェルデンの後ろにいき、両肩をがしっと掴んだ。
「お互いの実力を知らぬまま戦った方が面白い! それでこそ勝負! 体育祭だ!」
「お姉ちゃんの特訓姿は見ちゃってるけどー?」
「それはいい! 寧ろ見ろ! この頑張りようを! そしてお前たちも燃えろー!」
「ボクたちは燃えなくても強いからいいのー」
そうだ、このヲタ双子、運動神経も抜群だった。
「ええーい! それがどうしたー! 燃えたもん勝ちじゃーい!」
「暑苦しいなー。ボクたちは爽やかに勝利する。ま、お姉ちゃんは可愛いから頑張ってほしいけど、豆先輩は体育祭の前に燃え尽きちゃってよ」
「俺は! 燃え尽きぬ! たとえ灰になっても!」
「灰になったんなら燃え尽きてんじゃん。あー、もう無視しよ。ところでお姉ちゃん」
「はい、何でしょう?」
「体育祭の時、ブルマ穿かない? ブルマで走るお姉ちゃん見たいなー」
「えっ、ブルマ、ですか?」
「ブルマよーし! フェルデンくん! ブルマを穿いて特訓しよう!」
「えっ……」
「豆先輩はー、見ちゃダメー。見たらこうするからー」
ヴィエルはフルポーカーで何か、いや、玉を握り潰すように、手を広げると指を順番に曲げていった。
「うおぉー……。だか、玉の一つや二つ!」
「あ、そうそうっ。ボクたちね、『リールお姉ちゃんを守り隊』に入ったからー」
……何ですと!?
「ラビオスお姉様に言ったらー、すぐにOKもらったよー。だからー、お姉ちゃんと特訓してー、ムラムラしてそのでっけー玉をさらにでかくしたら、潰すから」
「…………」
「大丈夫ですよっ、お二人共っ」
前から聖母様の声がっ。
「
「上心?」
「上を向いて頑張る心のことです! だからっ、そんな
「……」
振り向いた聖母様。
痛い痛い痛い! 鉄仮面の中にあるであろう、キラッキラした瞳が痛い!
「上心か、豆先輩にしては上手く素晴らしいものをお持ちだ」
サージュが興味深そうに眼鏡をくいっと上げた。いや、中身を考えたのフェルデンだけどな。
「上心かー。それならボクたちも持ってるよー。ね、サージュ」
「そうだね」
「え、そうなんですか?」
キラキラ声の聖母様。
「上を向いて仕事頑張って、もっと有名になって、ある程度働かなくても大丈夫なくらい貯めたら。ボクたちだけのリールお姉ちゃん写真集を作るんだー、の心」
ヴィエルは上を向いてうっとりした。
「え……」
「あー、安心してー。ヌードじゃないからー。この間のコス写だけで充分シコ、って、ボクらに玉はなかったー、ちくしょー」
「…………」
奥さん、今こいつあれを言いかけましたよね!?
「だから、本当ふたなりになりたいよね」
「それな!」
「ふたなりになれる魔法はないんだろうか」
「器具を付けても味気ないからねー」
「……」
「器具? 何の器具ですか?」
「あははー、もちろんー、カメラの器具に決まってるじゃないかー。お姉ちゃんの写真を取るんだからー」
「……」
いいえ。
「そうそう、カメラの部品のことだよ。姉さん」
「なるほどー、カメラも奥が深いんですねー」
「…………」
いいえ!
−−−−−−
あとがき。
器具の名前を知っていても、言葉にしないようにお願いしますね(笑)
あと、何で知ってたかもツッコまない方向で。
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