顔を見せてよフェルデンさん〜鉄仮面を被っても最強最かわな転校生、と青春したいのに、彼女を愛するイケメン女子が邪魔してくる件〜

冥沈導

第1部 転校生は鉄仮面

第1章 フェルデンさんは顔を見せたくない

第1話 何でそんなもん被ってんの?

 ……なぁ。


 転校生が鉄仮面を被ってきたことあるか?


 ない、よな。あるわけないよな。


 え? 違う違う!


 鉄仮面みたいに無表情、とかじゃなく。

 リアルで。マジもん被った奴。


 ないだろう? そうだろう!


 それが美少女だったらどうする!?


 興味を持つだろう! 好きになるだろう!


 これは、そんな美少女(らしい)転校生と俺のアオハルの物語だ。


 あ! 


 お前ら気をつけろよ! 転校生は鉄仮面を被っていてもわかる美少女オーラで、変態女を呼び寄せるからな!





 ■ □ ■ □ 





「ラノベとは、何だ……。ときめきとは、何だ……。」


 よくラノベとかである、冴えない平凡な男子高校生が、転生したり転移したり、それらをしなかったとしても、美少女と出会い、エッチな展開ありつつの、恋に落ちるってやつよりすごい現代。


「ラノベ以上を体験してしまった俺に、最早もはやときめきなどない……」


 そう、ラノベ以上だ。


 今の時代、異種族が普通に暮らし、異種族との交流を推奨する学校や企業が多い。ウチの遙坂ようさか高校こうこうもその一つだ。異種族だらけ、異種族フィーバー。


 そのおかげで、入学してモテまくった。人間はもちろん、天使、悪魔、妖怪、エトセトラ。


 一年目はそれでよかった。浮かれポンチでモテない奴らの視線が心地よかった。

 が! それが二年も続くと、正直、飽きた。感動も何もない、もう勉強と同じで事務的に好意を受け取っているようなもんだ。


 で! 俺は分析した。何故、飽きてしまったのか。答えは簡単だった。求められてばかりだからだ! 俺から求めていない!

 無論、好いてくれる子は可愛い子ばかり。来る者拒まず、みんな付き合った。

 が! 結局みんな別れた。求められて終わり、俺は求めなかった。好きに、なれなかった……。


 だから! 飽きたのだ……。


「こう、何かないか。誰か来ないか、俺が求めたくなる女子はっ……」


「だからー、それが今日来る転校生だって」


 人懐っこい笑顔を向けるこいつは、隣の席の見谷みや明高あきたか

 ゆるふわパーマの茶髪で、前髪を赤いヘアピンで留めている。チャラそうな見た目だが、この人懐っこい笑顔のせいで、チャラさはチャラになり、……ん? チャラさはチャラ? ……ダジャレではない。えーと、そう、チャラさはチャラになり、女子受けが良い。俺には劣るが。


「美少女らしい転校生か?」


「そうそうっ。人間かなー? 獣人かなー? 悪魔とかでも大歓迎だよねー」


 それは俺も同じだが、誰でも大歓迎だが。いや! 俺が追い求めたくなる奴じゃなきゃ、歓迎せん!


「お前らー、席に着けー」


 担任のササっちが入ってきた。ササっち、フルネーム笹丘ささおかあきら

 体型がパンダみたいで、色白なのにいつも目の下に隈があり、パンダって笹好きじゃね? 名前も笹丘だしー、って事になりササっち。


「転校生を紹介するぞー」


 さぁ、来い! 人間か!? 悪魔か!? 天使か!? 幽霊か!?


「入れー」


 入ってきたのは。


「……は?」


 鉄仮面。


 しかもよくゲームとかで見る、フルプレートのやつ! 意味がわからん! そして、種族が何かすらわからん! わかるのは、スカートだから女子だという事だけ! おいおいササっち、とんでもないもんぶち込んできたな!


「自己紹介しろー」


 ササっちの左隣に来た鉄仮面は、俺たちを見るとお辞儀をした。いやいやっ、首折れない!? 大丈夫!?


「リール・シャンテ・フェルデンです。よろしくお願いします」


 顔を上げたかと思ったら、またお辞儀をした。だからっ、首ー! 


「席はみやびの前が空いてんなー」


 俺の前!? これから鉄仮面越しに授業を受けなきゃなんねーの!?

 うわー歩いて来るよー、鉄仮面が。つーかマジで大丈夫? どっかのSF映画の敵みたいに、息がスコースコーって聞こえているけど!


 俺の前に来ると、鉄仮面は椅子を引き、お淑やかに座った。よくそんなもん被ってんのに、そんな動作できんなーと、じっと見ていたら。


「うおっ」


 俺の視線を感じたのか、鉄仮面、じゃないフェルデンが振り向いた。


「よろしくお願いします、雅さん」


 またまた深々とお辞儀をし、ドゴンッといい音を立て、鉄仮面を俺の机にぶつけた。


「だっ、大丈夫か? 頭、じゃなくて、その鉄仮面」


「特注品ですので、問題ありません」


「そういうことか、納得」


 フェルデンは鉄仮面に似合わず、シャランと音がしそうな程、お淑やかに前を向いた。 


 いや待て、納得、してねーわ。何なんその鉄仮面? 気になって気になってしょーがねーわ! 好奇心に負け、フェルデンの右肩をツンツンと突いた。


「何か?」


 またお淑やかに振り返る。


「何でそんなもん被ってんの?」


「……我が家は代々、顔を他人に見せてはいけないしきたりですので」


「じゃあ、家族全員鉄仮面?」


「はい」


「なら、写真見せて」


「うぅっ……。しゃ、写真は、撮らない、決まり、です」


「えー、本当は見せられないだけじゃねーのー? 自分だけ鉄仮面でさー」


「ふ……」


「ふ?」


「ふえぇん……」


 な、泣いた!? 泣かせた!?


「なーに転校生を泣かせてんだー! この助平野郎!」


 屈むと同時に俺の頭上を、二メートル近くある黒い金棒が飛んでいった。俺の反射神経がなけりゃ、脳天直撃コースだった。


「委員長ー、暴力反対ー!」


「この学校は何でもありだろ、犯罪行為以外」


 俺の隣に来て、ゲラゲラと豪快に笑うこの大女は、学級委員長の赤町せきまちはる

 身長二メートル近くある赤鬼。といっても、肌は赤くない、短髪と目と額の角の色だけ。


 そして、この学校は何でもあり。武器持ち込みオッケー。魔法オッケー。制服はあるが私服でもオッケー。

 だから、この大女のせいで教室の天井はめっちゃ高い。さっきのように金棒を振り回して、窓ガラスが割れる事なんて日常茶飯事。


「ササっちー、委員長が窓を壊しましたー」


「はーいはい。ほいっとな」


 ササっちが右手の人差し指をクルクル回し、割れた窓ガラスに向けると、外側からパキパキと修復していって元通りになった。

 ササっちは、人間と何かのハーフらしく、魔法が使え、こうやってすぐ直しちゃうから、いつまでもこの女は反省しないんだ。


「あーん? 何か言いたいことがあるなら、はっきり言いな!」


「今日もお胸が簡単に頂上制覇できそうですね」


「てめー……」


「喧嘩はいけません」


 フェルデンが静かに制した。いやいや、お前のせいだから!


「転校生に免じて、今日は許してやるよ。あ、あたしは赤町晴那。学級委員長だ。困った事があったらいつでも言いな。特にこの助平男に手を出されたりしたら」


「いや、だから、俺からはみんな手を出してないって。みんな俺の虜なだけだ」


「よろしくお願いします、赤町さん」


「晴那でいいよ」


「では、改めて。よろしくお願いします、晴那さん。私もリールと呼んでください」


 フェルデンは立ち上がると、手を差し出した。って、俺は無視かよ!


「そうか、リール。よろしくな」


 赤町の手だとフェルデンの手が握り潰され、なかった。顔に似合わずソフト握手だ。


 そして、ソフト握手の相手、フェルデンを改めて見てみる。

 鉄仮面にはそぐわない細さ、そして、色白。背は低い。声はそれこそラノベがアニメ化したら、間違いなく美少女ボイスになるであろうぐらい可愛い。鉄仮面の下から出ている紫がかった黒い髪はサラサラだ。バストはDはありそうだ。

 美少女要素いっぱいだが、顔を見んことには、断言できん。


「リール、また助平がお前をいやらしい目で見ているぞ。なんなら席を変わってやろうか?」


「大丈夫です。この鉄仮面があれば顔は見えないので」


「その分、下半身をジト見されっけどな。ま、心配すんな。何かあったらあたしがこうやって」


 赤町はブォンッと何もない空間から、また金棒を生み出した。そして、バッターのように構えて振る。また俺が頭を下げなきゃ顔面ベッコボコだったけど!?


「この男を校外ホームランにしてやっからよ」


 それはやめてください。


「ふふっ、はい、頼りにしています」


 くそー、女子だけ盛り上がりやがってー。いつか絶対にその鉄仮面の下を、見てやるからなー!

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