物欲勇者と手癖の悪い男達
翔田美琴
第1話 物欲勇者クレア
「おい!クレア!やめろって!確かにここの武器屋はいい性能の武器があるけど、中には戦士しか扱えない武器もあるぞ!買っても無駄だって!」
「店主さーん!この鉄の斧もくださいな」
「お客さん。随分と奮発してますね。ここの武器を一通り買うなんて。ありがたい事だが、お客さんのパーティーには戦士なんて居ないよね?」
「奮発じゃないよ。この勇者は買い物依存症なの!」
連れの旅の商人ハザードは呆れたように店主に説明した。
必死になって止めに入るのはいつも、僧侶オグスと魔法使いエリオットの2人だ。
新しい街に来ると発病する勇者の買い物依存症。常に買い物していないと不安になるというこの女勇者の名前はクレア。
彼らは武器屋にてしこたま買った後、気が付いたら宿屋に泊まる路銀が無い事に焦る。
「あ〜!今夜の宿屋に泊まる為の金が無い!」
「クレア!買い物し過ぎだよ!」
「大丈夫よ、その辺の魔物倒してチャチャッと金を調達しましょ!」
「おい、クレア。もう俺の魔力は空っぽだよ。この街に来るまでにだいぶ魔力を使ったからな〜……」
「オグスの回復呪文があれば大丈夫でしょう?」
「私も使い切ったよ。魔力を」
「え〜!?あなた、いつも、魔力は余力があるでしょう!?」
「この街に来るまでに皆の治療をしたのは誰だと思ってるんだ?」
「ねえ、ハザード。どうしよう?」
「だったら、道具袋の中にある高く売れそうで今の俺達では使わない武器とか防具を売って今夜の宿屋代にしようぜ」
「嫌よ!私は!」
「何で?」
「全部コレクションにするんだから!」
「だからといって何も初めてきた街でそれをやらなくてもいいだろ!?」
「そうだよ。エリオットが移動呪文を覚えればいつだって、一度訪れた事がある場所なら行けるだろう?」
「ゔ〜。手放すなんていやだ〜」
「なあ?確か、道具袋の中にあのアイテムあるんじゃないか?テレポストーン」
ハザードはそう呟くと道具袋を漁る。
クレアは確かに買い物依存症だが、そのぶん道具袋の中には消費アイテムも沢山のストックがある。
テレポストーンとは瞬時に街へ戻る事が出来る便利グッズだ。しかも指定した場所へ戻る事が出来る便利グッズ。
漁るとそれがストックとして40個もあった。
「これでクレアの元いた街に帰って、クレアの家で泊まらせて貰えないかな?」
「実家へ行くの?」
「そうするしかないんじゃないかな?」
「実家へ戻っても大したもてなしないけど」
「別にいい。ようは今夜、泊まれる場所さえあればいいんだし」
「……わかったわよ。いくわよ?」
テレポストーンで一瞬でクレアの実家の街に戻った勇者一行。
母親は外の玄関に立って待っていてくれていた。
「お母さん、ただいま~」
「クレア。おかえりなさい。お仲間の皆さんもおかえりなさい」
「すいません。また一晩、泊まらせてください」
「ええ。狭い家ですけどそれでいいなら」
この家はクレアの実家である。
少し寂れた、狭い家だが、同居人が祖父と母親だけの質素な家なので別段困ってはいない。
そうして彼らはまた一晩、クレアの実家に泊まる事になった。
そうなった理由は母親は何となくだがわかるが、敢えて訊いた。
「あの…」
話し掛けられたのは旅の商人ハザード。
彼は魔力は持っていてもそれ程消費してないので軽く寝るだけでいい。
「うちの娘。また例の病気を?」
「まあ、そんな所ですかね」
「本当にすみません…」
これは【物欲勇者】との悪名を作ってしまった、とある勇者一行の魔王を倒すまでの問題だらけの愉快な旅路である。
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