第89話 女鬼たちの出産
十月二十七日。娘たちの定期検診の日。
ついでに、女鬼三人も妊娠しているか検査するということで、亜希子の研究所へ
事前に連絡を受けていた亜希子と徹は、到着と同時に駐車場まで迎えに出た。
だが、二人は、おっかなびっくりである。
かつて恐怖体験をした鬼の、診察をしないといけないというのであるから…。
診察自体は、特に何事も無く終了。
結果は、女鬼三人とも、めでたく妊娠だ。
なのに、アマが寂しそうな顔をした。そして、同行の舞衣にすがった。
「もうこれで、慎也様の御情けは、頂けないですか?」
舞衣は困った顔で慎也を見た。
アマも
「いやいや、二人してそんな目で見られても困るんですけど…」
少し前までアマを敵視していたはずの
「母様。赤ちゃん産まれるまでしかアマたちはこっちに居られないんだから、それまでは、良いんじゃないの?
父様とスルと、安産になるんでしょ?」
(この変な知識は恵美さんね…。でも、まあ、仕方ないかもね…)
舞衣はそう考え、決断した。
「分かりました。こっちにいる間は許可します。トヨさんとタミさんもね。
それから、お腹が大きくなってきたら終了ですよ」
「有難うございます~舞衣様~!
完全に、舞衣と
トヨとタミも嬉しそうに頭を下げている。
それにしても、やはり慎也に決定権は無いし、毎晩九人の相手をさせられるとは…。
亜希子と徹は、同情の目で眺めていた。
皆、総出での稲刈り…。
境内大賑わいの七五三…。
超、忙しい正月が過ぎ、「鬼は外とは失礼極まりない」とのアマの
満開の桜の下で、皆
恒例の
更には、泥だらけになっての
緑広がる水田と、暑い夏…。
アマたち女鬼の腹は順調に大きくなってくる。
また、娘たちも、みるみる成長し、めでたくそれぞれ初潮を迎えて、御赤飯で祝った。
九月に入り、女鬼三人の赤ちゃんは、もう何時産まれてもおかしくない。
出産の痛みは想像を絶すると聞かされていたアマたちは、不安で仕様が無い。が、そんな三人に、恵美は、あっけらかんとして言う。
「大丈夫よ~。ここに居れば、スポンッて出ちゃうから~。
私だけは痛~い思いして産んだのに~、後のみんなは慎也さんにやってもらって、痛くも何ともなく、あ~っ と言う間!
嫌になっちゃうわよね~」
恵美は、出産の際に自分だけ助けてもらえなかったのを、今だに根に持っているようだ。
九月八日。満月。
アマたち三人、
産まれてくるのは、
ということは、多分、同じような時間に続けて産まれてくる…。
亜希子に連絡すると、
「慎也さん。処置が間に合わなくなりますから、間をおいて産ませてくださいね。お願いしますよ!」
亜希子に念を押されるが、出てきそうになったところで手を貸すだけだ。そんなことを言われても、慎也も困る。
まず、トヨの陣痛が始まった。
「あ、産まれそうです。痛いです…」
破水したところで、慎也はトヨの腹に手を当てた。念を込める。
「あ~っ!」
娘たちの時と同じように、一気に膣口が開き、ニュルッと、滑り出るように産まれた。
「おぎゃ~!」
元気な泣き声が響き渡る。女の子だ。
亜希子が、受け止めた赤ちゃんの
続けてタミが、産気付く。
「亜希子さん。もう大丈夫?」
慎也が亜希子に声をかけた。
亜希子は、すでにトヨの子を杏奈に渡したあとだ。
「はい、どうぞ!」
タミの腹に手を置く。
「あう~っ!」
またニュルッと、一気に出てくる。
「おぎゃ~!」
こちらも女の子。
が、同時に、アマも
「あ~。私も早く~!」
慎也は
「あ~、
亜希子が間に合わなく、
「大丈夫。私が受け止める!」
トヨの胎盤の処理をしていた環奈が、素早く出てくる赤ちゃんを受け止めた。
「おぎゃ~!」
元気な男の子。
環奈が手際よく
アマは愛おしそうな顔で、産まれたばかりの我が子を眺めていた。
出産し終えたからといって、今日か明日かという具合に、妖界へ戻ることは出来ない。当然のこととして、母子ともに安定してからということになる。
そして、満月前後の一週間しか、異界の門は開けない。
このため、アマたちが帰るのは一ヶ月後となった。
一ヶ月後の満月の日は、
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