第72話 バター狼

「師匠、持ち切りのあの噂を知ってますか」


 遅い昼飯を食堂で一人とっていたら、トニアが来て話し掛けてきた。


「どの噂だ。あのだけじゃ分からん」


「白くて、生臭いあれです」

「俺は野郎のには興味ない」


「何を勘違いしているんですか。あれって、白いモンスターですよ。攻撃しないと圧し掛かられて、ぺろぺろ生臭い舌で舐められてるそうです」

「人懐っこい奴だな。手なづけてバターモンスターにでもしたらどうだ」

「じゃあ、一緒に行ってくれますか」

「百合の花園のやり部屋に入れてくれたらな」


「性転換するならいいですよ」


 良い事を思いついた。

 幻影魔法のランクをFからSに上げれば大抵はばれないはずだ。

 女に偽装して潜入しよう。


「俺の代わりにエイダという女の子が見学に訪れるから、やり部屋を見せてやってくれ」

「刺激が強すぎないですかね」

「ストリップバーでバイトしているから平気だと思う」

「生徒以外を入れるのは少し抵抗がありますが、他ならぬ師匠の頼みなので、受け入れます」


 ぐへへっやった。

 この間、チラッとロイドは覗いたのを自慢してたからな。

 興味があったんだ。


 俺達はモンスターが出るという辺境の森まで出かけた。


「この辺りなんですが」

魔力感知マナセンサー、Sランクバージョン。いたぞ、こっちだ」


 反応があった場所に行くと、白い狼型のモンスターが尻尾を振っていた。

 こいつどっかで見た事が。

 おお、俺はぽんと手を打った。

 こいつは追っ手を撒く為にモンスターを強化した奴だ。


「来い」

「わん」


 俺の胸に飛び込むモンスター。


「師匠、もう仲良くなってますね」

「舌で舐め回されて、べとべとだ」

「連れて帰れそうですか?」


「一緒にくるか」

「わふん」


 頷くモンスター。


「じゃ、お前は今日からシロだ」

「わん」

「よしよし」


 俺はシロの首筋をわしゃわしゃと撫でた。

 その時、男達の一団が現れた。


「見つけたぞ。白い悪魔」

「お前達は何だ」


「エクセレントの討伐部隊だ。そのモンスターを譲れ」

「嫌だね」

「価値が分かって言っているのか。鑑定ではSランクの魔石を持っていると判明しているのだぞ」

「Sランクの魔石など石ころと変わらん。退くなら1個恵んでやってもいい」


「どうします」

「ここでこいつを殺してモンスターと魔石を奪えば良いだろう。女はみんなで使ったら口封じだ」

「さすが隊長」


「お前ら、どうしようもないクズだな。秘孔魔法・滅魔点穴からの秘孔魔法・金縛り拳ハートストップ」


「ぐわっ」

「おいどうした。ぐっ」

「なんだ。くっ」

「俺は逃げる。ぐがっ」

「くそっ」


 男達は全滅した。


「こんな奴ら死んで当然ですよね」

「全くだ。こらシロ、食うんじゃない。ぺっしなさい」


「くぅん」

「帰ったら、たっぷりバターあげますからね」

「バターはシロの体に悪そうだから、ほどほどにな」


「心配いらないですよ。無塩バターを使います」


 シロを連れて学園に戻ってきた。

 ペットは厳禁だが、猟犬としてならオッケーらしい。

 シロを百合の花園に取られてしまった。


 マッサージには使えないからな。


 さて、お楽しみだ。


 幻影魔法で今から俺はエイダという女の子だ。


「エイダです。ヒロさんに紹介されて来ました」

「トニアよ。よろしく」


「楽しみです。ストリップバーは女の子同士の絡みがないので、とても興味があります」

「そう、楽しんでいってね」


 百合の花園の部室に入る。

 女の匂いが立ち込めている。

 おおっ、びんびんくるぜ。


 奥まった所にあるやり部屋の扉を開け中に入る。


※済まない、ここから先は自主規制なんだな。


「わふん」


 どことは言わないが、ナメナメしていたシロが、俺の所に来て顔を舐める。


「師匠、幻影を使いましたね」

「ぎくっ。どこで分かった」

「女性の歩き方はもっと小股です。所作が男性なので分かりました。今回だけですよ」


「うん、十分堪能した。シロの元気な活躍も見れたしな」


 シロが羨ましい。

 思いついた。

 なめなめ人形を作って、俺の髪の毛を仕込んで舌を同化させれば。

 どこに作らそうか。

 プロダクションの支部は駄目だな。

 生産科も望み薄だ。

 誰か秘密を守れる奴を見つけたい。


 でもよく考えたら、なめなめ人形に需要はあるのか。

 無いだろうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る