第1話 邂逅
”ハァハァハァ”
激しい息遣いが、驚くほど鮮明に聞こえて来る。
これが、自分の息遣いであることに、
当の本人はすぐには気づけないでいた。
それも、そうだろう。
彼は今、現実にいるのか、
それとも夢を見ているのか。
その区別も良く出来ていないのだから。
「待ってくれ。 俺はそんなつもりじゃ」
「もう遅いよ。」
「■■■、殺さな...」
そう彼が嘆願しようとしても、声が出ない。
恐怖からではない、明らかに何かに掴まれている。
それが、何かは解からない。
「さようなら」
何かに掴まれた彼は、そのまましばらく、
抵抗するように手足をバタつかせていたが、
次第に反応しなくなる。
何かに掴まれた男は、あらゆる穴から、
窒息死特有の、体液をまき散らしながら、
ついに動かなくなり絶命していった。
彼が最後に聞いた言葉は、文字通り
この世からの別れの言葉だった。
「さて、用事も済んだし、もどろうかな」
男は、彼の死体には目もくれず、
その行いも恥じる事無く、飄々と。
何事もなかったかの様のその場から、
立ち去って行った。
では、つづいての、ニュースです。
昨晩、○○町の廃墟の地下室にて謎の変死体が
発見され警察は身元を...
霧崎みことは、毎日流れるお決まりのニュースを
聴き流しながら身支度を整えていた。
今日もか。
ここしばらくの間で、何件発見されただろうか。
”紐の無い首吊り死体”は。
首吊りなら、ロープを天井の梁などの結び、
椅子などに乗ってからそれを、蹴とばすなどして
自殺するか。
若しくは、何者かに首を絞められて
殺されるかだろう。
ただ、今も流れているニュースは、
ロープや紐はもちろんの事、
首吊り自殺を出来る場所でも、
椅子などの道具もない。
不可解な事件であった。
”一般的に見ればだけど。”
そう思いながら、霧崎みことは、家を出て
自分を待っている。
黒塗りの高級車へ乗り込んでいった。
「みことさん。」
16歳の私に敬語なんてと20個は離れている、
オジさんに言われると、なんか悪い気がする。
「なに?」
私も、あえて仲良くする必要もないから、
ぶっきら棒に返す。
「これを。」
手渡されたのは、昨夜の事件の犯人と思しき
人物の資料ともう一つ、同時刻に起きた
大規模事件の資料であった。
「もう一つの事件は?なに?」
どうやら、メディアに対して、かなり強力な
情報規制を敷いているらしい。
それもそうか。
人ひとりの事件なら、何とかこじ付けて、
科学的に立証出来たとか理由をつけられるけど。
「これはさすがに無理か。」
”一夜にして宗教団体の本部集会で、300人の信者が一斉に不審死”
そうかかれた、資料に目を通しながら、みことはある一文に気づいた。
「これは?」
「今から、その人物に会いに行きます。」
「そう」
”300人規模の不審死の中、ひとりの生存者あり”
今回、自分が呼ばれた理由はこれか。
不審死事件の犯人と大量虐殺の犯人の捕縛、
もしくは殺害及び生存者の保護。
300人規模の大量殺戮の中たった一人の生存者。
彼はたまたま生き残ったのか、それとも?
もし、生かされたのなら、犯人はどうするだろうか。
それに、政府が自ら殺害と記すには裏があるのだろうか。
どちらにしろ、彼を保護する事必須になりそうだ。
私は、目的地に着くまでの間、事件の概要に軽く目を通しながら、どんな人物がなぜ生き残ったのかに、興味をそそられ、様々な可能性を考えていた。
「みことさん。到着しました」
そこは、私も以前訪れた事のある病院で、
この手の事件の後には、被害者や巻き込まれた
人達はここに一度は収容される。
「また、ここか。」
「なにか、言いましたか?」
「いいえ、行きましょう。対象まで案内して」
ここには、正直何度も足を運びたくはない。
今までも、事件が起こるたびに訪れているが
その気持ちは回数を重ねるごとに強くなっていく。
みことは、そう思いながら院内を案内され、
彼の病室の前までやって来た。
「ここです。」
やはり、対象の存在はかなり重要らしい。
案内された病室は、特別な方法でなければ、
外からはもちろん、内側からも開けることが出来ない。
そんな仕様になっている。
「厳重ね、開けて。」
みことが、そいう言うと、彼はある鍵を使い
扉をあけてくれた。
あの鍵は特別製で、複製はもちろん、
限られた人物が然るべき方法を用いて、
さらに開ける時にも、多少のコツがいる。
開いた扉から、私は彼より先に病室に入っていた。
そこには。
私とあまり歳の変わらないであろう。
青年が一人、ベットに潜り込んで眠っていた。
「意識はあるの?」
私は、彼に尋ねたつもりだったが。
以外にも答えたのはベットの中の青年であった。
「えっ、だっ誰ですか?」
当然の反応だろう。
いきなり自分では開けられない部屋に閉じ込められ。
知らぬ人物が入って来れば誰だって驚く。
それにしても、やけに怯えているような。
「みことさん。ローブを」
私は彼からの耳打ち気づいた。
いつものことだから、つい忘れてしまう。
私は、目元まで覆う厚手のフードを外して、
真黒なローブを脱ぎ捨ててふただひ、
対象と向かいあった。
そこには、銀色の美しい髪に、
完璧なプロポーション。
男性なら誰もが振り返るだろう、
整った顔立ちの少女が姿をあらわした。
「自己紹介させて、もらうわね。
わたしは、霧崎みこと。」
「安心して、政府の人間よ。
まあ、警察関係者と言ったところかしら。」
訳あって、あなたのこれから数週間の間
あなたを護衛します。
「よろしくね」
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