20:00

夏休みに瑠愛さん家で映画鑑賞会をした時に教えてもらったピンポンちゃんぽんの方が、こんなボウリングより面白かったな。


そう思いながら投げた玉は変に曲がって、1本だけピンを残した。


夏來「渡辺くん、上手いね!」


と言って、ストライクでもスペアでもないのにハイタッチを求めてきた夏來になんの気もない軽いハイタッチをすると、その隣にいた淡島さんも求めてきた。


淡島「渡辺くん、深実くんのお兄さんに勝てちゃうかもね。」


琥太郎「…かもね。」


僕はみんなのマドンナにも適当にハイタッチをして、空いていた席に座って順番を待っていると、他のレーンで投げていた風喜のお兄さんの深実 雷翔ふかみ らいとが隣に座った。


雷翔「おこたは薬でもやって、なんでも出来るスーパーマンなの?」


と、風喜の要素が凝縮されて濃くなった雷翔さんは染め過ぎてパキパキになった髪をつまんで束にしながら僕のスコアを見て少し苛立ってる様子。


琥太郎「そんな薬あったら欲しいですよ。」


雷翔「じゃああげる。」


そう言って、雷翔さんは胸ポケットからラムネ玉を出して僕にくれた。


琥太郎「…偽物ですよね?」


僕は雷翔さんの特殊な職業に少し怪しみを持っていたので、白くて甘い匂いを出す薬の香りをしっかり嗅ぐ。


雷翔「当たり前だろ。金ねぇからタバコ買えねーんだ。」


琥太郎「…いただきます。」


少し話が合わないいつも通りの雷翔さんに僕は一安心して口に含むと、本当にただのラムネだった。


雷翔「おこたはこの後、俺ん家来る?」


琥太郎「え?明日終業式なので自分の家帰りますよ。」


雷翔「えー…っ。一緒にお酒飲もうよー。」


琥太郎「未成年なんで。犯罪に巻き込まないでください。」


雷翔「風喜はノリいいのに…。」


…こいつ、大人なのになにやってんだ。


僕はどうしようもない人たちとつまらない時間を過ごし、帰るために駅の方へ向かっていると目がふと1人の女に止まった。


…なんでここに日向がいるんだろう。


塾かなんかの帰りなのかな。


そう思っていると、僕の腕に抱きついていた雷翔さんも一緒に足を止めた。


雷翔「なに?タイプ?」


と、雷翔さんは僕の目線の先にいた男に肩を抱かれている日向とでかい男の3人組を指した。


琥太郎「そういうんじゃ…」


どう言い訳をしようか考えていると、日向の肩を抱いていた男が日向の頭を撫でておでこにキスをした。


雷翔「あーあ。残念。」


風喜「なにごとー。」


爽太「まだ遊ぶのか?」


夏來「一応、明日クリスマス会だよ?」


と、僕が足を止めていた場所に駅に向かっていたみんながわらわらと集まり、日向が顔を真っ赤に染めているのを見つけた。


夏來「天使じゃん。パパ活?」


そう言って夏來が携帯を出し、連写で写真を撮った。


琥太郎「なにやってんだよ。」


夏來「なんにも。帰ろー。」


風喜「兄ちゃん、あれが清楚系。当たりでしょ?」


雷翔「あー…、ありゃ誰が見てもナンパ待ちだな。」


爽太「清楚でビッチって今の流行りなの?」


そんなことを言いながら足の重い僕をみんなは駅へ連れて去った。


クリスマスパーティーで会えたらデートでも誘えたらいいなって思ってたのに…。


僕は自分よりも汚いことをしている日向に幻滅し、引きずっていた恋心も枯れてしまった。



環流 虹向/てんしとおコタ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る