街道にて候

葦池昂暁

プロローグ 天下泰平の世

 それは徳川による天下統一を経て、泰平たいへいへと向かってゆく時代である。関が原からしばししの代を重ねて合戦の記憶も薄れるが、まだ戦国の世の余波が続く頃でもあった。


 此度の一件は幕府の整備する中山道なかせんどうにあって、付近に住む民百姓の間では語り草の物語である。


 いまだ山岳には野武士の一団が潜伏しており、少数の盗賊も跋扈ばっこしていたので、町人や百姓はもちろんのこと、街道を旅する人間にとって心配の種であった。そのような折、街道の管理と治安を守るために奉行所は置かれることとなる。


 それ以降、同心どうしん与力よりきは忙しく仕事に励んでいる。


 そんな時、街道沿いで悪童どもが徒党を組んで、街道を旅する人々に絡んでは悪さをすると噂になった。聞くところによると、下手な歌舞伎を見せては銭を催促したり、沢から汲んだ水だと言い張って、普通の川の水を少々高い値段で売り付けたりなど、迷惑の限りを尽くしているらしい。


 周辺の百姓を問い詰めてもせがれは無関係だと言い張って、最初は奉行所の同心たちも浮浪者や家出人の類だと思っていたが、それにしては人数が多いようだ。


 なんにせよ、岡っ引おかっぴきに捕り物を演じさせて、自分たちは高みの見物をしようと思っていた同心たちだったが、上司である与力から直々に捕らえよとの命が下った。


 季節は春、中山道を舞台にして熱き戦いは始まる。

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