第58話 遭難Ⅱ

「朝か……」

 眩しい陽の光に照らされ、俺は目を覚ました。

 ここは湖の辺。

 俺とアヤメはこの深い森の中で遭難し、この湖の周辺で昨日から野宿をしている。

 

「あれ、アヤメは……?」

 どこへ行ったんだろうか?

 横で寝ていたはずのアヤメの姿が見当たらない。


「お~い、アヤメ~? どこにいるの~?」

 俺は湖の周辺を探した。


 ――バシャッ

 透き通った綺麗な湖の中から、勢い良く何かが飛び出した。

 綺麗なブラウンヘヤーの長い髪。

 アヤメだ。

 誰もいない湖で、水浴びでもしたのか。

 気持ち良さそうに、泳いでいた。


 アヤメの綺麗な白い肌が水面に浮かび上がる。

 そして、膨よかな体つきの……?

 ……って、アヤメ、もしかして……?


「えっ、エン……? キャァ――――――――‼」

 湖の中心から森中にアヤメの大声が響き渡った。


 アヤメは湖から上がり、服を着る。

「エンの変態~~!」

「ごめん……でも、わざとじゃないんだ! 起きたら、アヤメの姿が見えなかったから……」

「スケベ、エッチ、エンの覗き魔~~~!」

「アヤメ、ごめんって……‼」

「エンの変態!」

「ホントに許して……この通り……」

「もう冗談だって、勝手に水浴びしてた私の方も悪かったから……。エンがまだ寝てたから、起きる前にちょっことだけ水浴びしようと思って……」

「こっちだって、びっくりしたんだからな!」

「はいはい……。で、さぁ、エン、どうだった?」

「何が?」

「それは私の裸、見たんでしょ? 私の体どう?」

「ど、どうって……そ、そうなの覚えてないよ!」

「わぁ――、それはショックだな! あれだけマジマジと覗いておいて! ねぇ?レイナと比べてどうだった?」

「レイナと比べてって……⁉ いや、俺はまだレイナの〇$%&◇×……」

 顔を真っ赤にして黙り込む俺。

「もう冗談だって! エンはすぐに本気にするから面白いんだから! さてと、これからどうしようかな?」

「近くにベースキャンプとかあればいいだが……」

「なら、ベースキャンプが近くに無いか探しつつ、森の中を探索しましょう!」

「そうだな!」



 アヤメと二人、森の中へと入った。

 森の中では、アヤメは何かを物を探していた。

「違うな、これも違うな」

「どうしたの? アヤメ?」

「いや、ちょっとね。探している植物があってね」

「どんな植物?」

「うーん、なんと説明していいか分からないんだけど、とにかく変な形をしているの!」

「変な形……? 分かった、俺も見つけたら教えてるよ!」

 アヤメはこの森である植物を探しているようだ。

「アヤメ、これはー?」

「違う!」 

 それがどれか分からないが、とにかく目についた植物を手にしてはアヤメに見せた。

「なかなか、ないねー!」

「本当にこの森にあるの?」

「多分、ある!」

「結構、探しているけど、全然見つからないな……」

「もうちょっと、あとちょっとだけ探そう!」

「分かったけど……」

 なかなか見つからないお目当ての植物。

 とにかく変わった形の植物って……。

「これは?」

「あー、それでも……。いや、それだ―――⁉」

「えっ⁉ これ‼」

「エン、ナイスだよ!」

「おう!」

 探すのに疲れて適当に聞いたんだけど……。

 まぁ、良かった!

 アヤメの探していたのはこの何だろう……。

 表面にトゲトゲのある、ヒトデ……?

 本当に見る方に変な形の植物だった。

「よし、これだけあれば十分だね! じゃあ湖に戻りましょう!」

「おう!」

 でも、こんな植物採って何に使うんだ?

 食べるのか? 

 あんまり美味しそうな見た目じゃないが……?


 拠点としている湖に戻るとアヤメは早速、

「じゃあ、それを早速……!」

 と言いながらアヤメは服を脱ぎだした。

「えっ、ちょ、ちょっと……急にどうしたの⁉」

「お願い、エン……して……」

 背を向け、肌を見せるアヤメ。

 おい、アヤメ……?

 誰もいないからっていきなりそれは大胆だって……

「……これ……?」

 アヤメの背中には沢山の擦り傷があった。

 落下したときの傷だろう……。

「アヤメ、背中が凄い擦り剥いている!」

「うん、だからそれを傷口に塗ってほしいの」

「これを⁉ もしかして、これ、キズ薬?」

「まぁーそんなものかな? 本当はちゃんとした薬を塗るべきなんだけどね……。感染病にならないための応急処置ってところ!」

「そうだったんだ!」

 てっきり、食べるために採取していたと思ってた。

「表面に切り口を入れてみて!」

「分かった!」

 俺はトゲトゲの表面に少し切り口を入れると、中から透明な液体が溢れてきた。

「まるでアロエだ‼」

「アロエ……? それはスーテリア草だよ」

「ほう、スーテリア草ね!」

「その液体を塗って欲しいの!」

 と言いながら、アヤメは長い髪を前に掛け分けた。

 すると綺麗なうなじが見える。

「これをこの傷にね……」

 うなじなんかでドキドキしちゃダメだ……。

 ちゃんと集中しないと……。

「エン、間違ってもエッチなことは、しちゃダメだからね!」

「しねーよ!」

 俺はアヤメの傷口にスーテリア草の液体を塗った。

「あんっ……‼」

 変に生々しい声を出すアヤメ。

「アヤメ、大丈夫?」

「大丈夫、生だからかなり感じるだけ……お願い続けて……」

「続けるよ」

「あっ……‼ いやっ……‼ ダメ……‼」

 心配になってくるほどアヤメは声を出す。

 それほど生のスーテリア草の塗り薬の効き目が強い様ようだ。

「中に……、中にいっぱい、痛い…………‼」

 傷口に薬が沁みる痛みを涙目になりながら必死に堪えるアヤメ。

 ちょっと、その声、エロいですが……。 

 そんな中、なんとか傷口全体に塗り終えた。


「ありがとね……」

 涙目でお礼を言うアヤメ。

「そんなに、痛かったの?」

「痛くないもん!」

 明らかに強がっているアヤメ。

 アヤメの事を頼りになるお姉さんに思っていたが、案外子供っぽいところもあるんだな。

「じゃあ、今度はエンね!」

「……俺?」

「ほら、脱いで!」

「脱ぐって……?」

「擦り剥いたところ全部に決まってるじゃん!」

「はい……」

 上半身裸になった俺。


「痛てぇ――――――――――‼」

 大声を上げる俺。

 これはかなり痛い。

 傷口に濃度の高いスーテリア草の殺菌作用が直で働いている感じ。

「痛い、痛い、もういいって、痛い、痛い!」

「ほら、最後まで我慢して……」

「はい……って、やっぱ、痛てぇ―――‼」



     * * *



「よっしー! ここにもあったー!」

 再び、俺たちは森の中にいた。

 朝と逆の方角に今度は進んでいた。

 森の中で、俺たちは食料になりそうな物を探していた。

 アヤメが曰く、このキノコが食べれるらしい。

 確かにいつかの酒場でもこのキノコみたいなやつを食べた覚えがある。


「エン、ここにもいっぱいあったよ、モリノコ!」

「大量、大量!これでしばらくは食べ物には困らないな!」

「そうだね!」


 日が暮れ、再び湖にまで戻った。

 今日の晩飯はこの大量のモリノコだ。

 火を起こし、さっそく焼いてみた。


「どれどれ、わぁ――、おいしぃー!」

「俺も、うめー!」


 腹いっぱいモリノコを食べた後に、夜空を見上げながら寝転んだ。


「今日、この辺りを散策したけど、どうやら近くには村もベースキャンプもなさそうね……」

「そうだな、あんなにモリノコが採れるってことはもしかしたら滅多に人の来ない場所かもしれないな……」

「私たち、見つけてくれるかな……」

「大丈夫だよ! 明日も森の中を散策してみよう!」

「そうだね!」


「ふわぁ――――!」

 と大きなあくびをするアヤメ。

「じゃあ、そろそろ寝るね、エン! おやすみ!」

「おやすみ、アヤメ!」


 明日こそは――。

 見つけてくれよな、レイナ!

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