第56話 遭難

 守備兵団の基地がある村付近の上空。

 エーリカとレイナを乗せて羽に傷を負った鷹が必死に飛んでいた。

「ここまで、よく頑張ったファルコ!」

「レイナ、しっかり掴まっておけよ!」

 なんとかここまで飛び続けたが、急に落下し始める。

「わ、わ、わぁ―――‼」

 村の目の前で、地面に練り込むように墜落した。

「きゃぁ―――――!?」



「おい、あれは……⁉」

「隊長が戻ってきたぞ――!」

 すぐさま村の門番の兵士が駆け寄る。


「隊長―――‼ ご無事で……⁉」

「私は無事だが……ファルコが深い傷を負った」

「今すぐ手当します! おい、キャンプから荷車を持ってこい!」

「了解!」

 騎士団たちは荷車に大きな鷹を乗せ、急いでベースキャンプの中へと運ばれていった。


 その後、ベースキャンプの中で一人蹲るレイナ。

「レイナ、怪我はないか?」

「はい、何とか……」

「良かった、念のためベースキャンプで傷の手当てはしてもらうといい!」

「エーリカさん⁉ 今すぐ、エンたちを助けに行かないんですか?」

「今は無理だ……。ファルコは飛べない状態だし、地上から行くのは、まだアイツに遭遇する可能性がある。それにもうじき、夕暮れ。日が暮れての捜索はかなり危険だ!」

「でも……」

「悪いが、あの高さからの落下で助かる見込みは……薄い……」

「そんな……」


 ……エン……

 ……アヤメ……

 レイナの目には大粒の涙が流れる。


「すまない……。でも、明日にでも全力で捜索はさせてもらうつもりだ」

「私、どうしたら……」


「ニャー! ニャー!」

 レイナの頭を撫で、励ますニャ―。

「……ニャーちゃん……」

「ニャー、ニャーニャー、ニャ――‼」

 と鳴きながらニャーは身振り手振り何かをレイナに伝える。

 必死に手を伸ばし、方向を示していた。

「こいつ、アイツらの居場所が分かるでも言っているのか?」

「ニャーちゃん、エンたちの居場所が分かるの?」

「ニャー‼」

「エンたちは無事なの?」

「ニャー‼ ニャ―――‼」

 笑顔のニャー。

 その表情に安心するレイナ。

「エンたちはまだ生きています! お願いします、エンたちの捜索をしてください!」

「分かった! しかし、捜索は明日からだ! なーに、命が無事なら、一晩、森の中で過ごしてもきっと無事でいるだろ!」

「ありがとうございます!」


     * * *


「……う……ん……? ここは……?」

 どうやら、森林の中。

 キーキーとどこからか動物の鳴き声と、小鳥が上空を飛び回る。

 そうだ、俺たち崖から落ちて……。


「わぁ~~~~⁉」

 俺は運良く木の上に引っかかり、気を失っていた。

 そして、無理に起き上がろとして転落した。


 ――ド~ン


「……痛てぇ……」

 けれど、命は無事。

 俺は立ち上がった。

 体の至ること所に擦り傷はあるが、途中の木の枝に引っかかったおかげで、なんとか助かったようだ。


「そうだ⁉ アヤメは……?」

 一緒に落下したはずのアヤメの姿がない。

「お~い、アヤメ~?」

 緑の木々が生い茂る森の中、俺は必死に叫ぶ。


「……んっ……エン……? って、わぁ―――⁉ どうなってるの――⁉」

 アヤメの声だ。

 上から聞こえる。


「アヤメ――?」


「助けて、エン~~~⁉ 落ちる~~~~‼」

 アヤメも高い木の枝に引っかかっていた。

 しかし、ムチが枝と体に絡まり、動けない状態に。


「待ってて、今助けるから!」

 俺は木を登り、アヤメの元へと行く。

 そして、絡まったムチを解く。


「ありがとう……! って、え、え、え……?」

「わぁ~~~~⁉」

 ボキッと枝が折れる音と同時に俺たちは木から落下した。


 ――ド~ン

「……痛てぇ……」

 おいおい、またかよ……。


 起き上がろうと俺は、手を伸ばす。

 

 ――プニプニ


 どこかで触った感触のある柔らかい物が目の前。

 って、まさかこれは……。

 地面の横たわる俺の上にはアヤメが乗っかっていた。

  

「エン、ちょっと……?」

「ご、ごめんなさい!」

「まぁー事故だから仕方ないけど、一応、触られるのは二回目だから、けじめはつけておくね?」

「……けじめ?」

 ――バチンッ

「ウッ……助けただけなのに……」

 痛い……。



 俺たちは森の中を散策した。

 どうやら、俺たちはこの広い森の中で遭難したようだ。

 さっきから見えるのは高いこの木ばかり……。

 さて、どうやってこの森から抜け出そうか……。

 しばらく、進むと水が流れる音だろうか微かに何かの音が聞こえた。


「もしかして⁉」

 音のする方へと向かう。

 そして、草木を抜けた先には――。

「わぁー、綺麗な湖だ―――!」


 それは、透き通ったパステルブルー色の綺麗な湖だった。

 湖の真ん中には大きな滝。

 下から見上げるだけでも、見渡せないほど――。

 とても高い崖の上から流れているようだ。

 アヤメは早速、湖の水を口にする。

「おいしいー!」

「ホントだ!」

「これ、きっと大地なる世界樹アースユグドラシルの上層部の雪解け水がここまで流れてきてるんだよ!」

「だから、こんなにおいしいんだ!」

「とりあえず、飲み水は確保だね!」

「飢え死に成らなくてよかった!」

「でも、これからどうする、アヤメ?」

「そうだね……。今日は、仕方ないけど、ここで野宿にしましょう。見た限り、森の中よりは見渡しがいいし、ここなら安全そうだわ!」

「そうだな! もう、日も沈んでいるし、これ以上、当てずっぽうでこの森を進むのは危険だろうし……」


 落ち葉と小枝を集め、火を起こし、暖をとる。

 幸いなことにこの湖には魚もいる。

 遭難で餓死するということは無さそうだ。


「大丈夫、レイナはエーリカさんと一緒だと思うから無事だと思うし、レイナが無事ならきっと私たちのことも探してくれるはず!」

「うん! ニャーもレイナに付いてくれていることだろうし! きっと迎えに来てくれるよ」

「それまで、なんとかこの森の生き延びましょう!」

「そうだな!」


 こうして、アヤメと二人、サバイバル生活が始まった。

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