第174話 王都へ
※今回は新川恭一目線の話になります。
銃の利点は、使い方さえ覚えてしまえば、誰でも同じ威力の攻撃が出来ることだろう。
勿論、技量によって命中率には差が出るだろうが、発射される弾丸の威力は、誰が撃とうが同じだ。
一方、こちらの世界では攻撃手段の花形である魔法は、個人の技量や魔力の量、精神状態などによって、威力に大きな差が生じる。
火事場の馬鹿力的に凄い魔法が使える場合もあれば、恐怖で委縮して魔法を発動させられなくなる場合もある。
銃と魔法、どちらが戦力として計算できるか……なんて論ずる必要も無いだろう。
弾薬さえ潤沢に確保出来ていれば、銃は計算できる武器なのだ。
新たな国境となるであろうコルド川に架かるセゴビア大橋の袂に、待ち望んでいた追加の弾薬が到着した後、俺と三森には撤退命令が下された。
銃のメンテナンス方法も教えてあるし、そもそも俺達じゃなくても自分達で手入れは出来るのだ。
潤沢な弾丸が届けば、発案者である俺達がいなくても運用は出来るという訳だ。
「撤退って、どこまで戻るんだ?」
「銃の試作をおこなっていた駐屯地らしいぞ」
「なんだ、王都じゃないんだ」
「駐屯地の荷物をまとめて、そのまま王都に引っ越しになるらしい」
「王都か、いよいよか……」
締まりの無い顔をしている三森の脳裏には、富井の顔が浮かんでいるのだろう。
付き合う前に結婚を申し込んで断られる黒歴史を作ったりもしているが、そこまで誰かを好きになれるのは羨ましいとも感じてしまう。
たぶん、王都で暮らすようになれば、また富井にアタックするだろう。
戦争奴隷として過酷な生活を送った富井は、簡単にOKしないとは思うが、三森も諦めたりしない気がする。
二人の根競べを横から見ているのは面白そうだとは思うが、見ているだけでは面白くない気がする。
というか、俺はフルメリンタの王都に行って何をしたら良いのだろう。
戦争奴隷になった後は、無我夢中で突っ走ってきた感じだ。
一応、魔法を活かした仕事がしてみたい……なんて思っていたが、王都にそんな仕事があるのだろうか。
というよりも、軍関係以外の仕事は出来ないような気がする。
俺と三森の待遇は、良く言うと戦果に応じて好待遇が与えられる感じだが、悪く言うと飼い殺しみたいなものだろう。
働かずに飯が食えるのは、ある意味理想的ではあるが、いきなり放り出されたら路頭に迷うことになる。
今更というきもするが、何らかの職を身に着けておいた方が良さそうだ。
「三森、王都に行った後どうする?」
「まずは観光だろう。名所をまわって名物に舌鼓を打つ、ついでに一杯きゅっとな」
結構真面目なトーンで聞いたつもりだったのだが、三森の能天気な答えを聞いて力が抜けてしまった。
「そうじゃなくて、何をして稼いで食っていくんだって話だよ」
「俺は……牛丼屋でバイトでもしようかなぁ……」
「でたよ、ストーカー野郎め」
「いやいや、下心があって行ってるんじゃなくて、日本式の牛丼屋のノウハウを知ってる人間が、協力した方が上手くいきそうじゃんか」
「それは、確かに言われてみれば、そう感じる部分はあるな」
三森の想い人である富井は、王都で牛丼屋を始める……みたいな話をしていたので、バイトの目的は百パーセント下心だろう。
恋は盲目なんて言うけれど、まさに今の三森の目には富井しか見えていないのだろう。
駐屯地に戻ったものの、着替え程度しか持ち物はなかったので、結局一泊しに立ち寄ったようなものだった。
再び馬車に揺られて王都へ向かう。
王都では、一旦軍の施設に入って、そこで旅の疲れを癒し、服装などを整えた後で、論功行賞の場に臨むらしい。
なんでも、国王から直接表彰されるらしい。
戦争奴隷から解放されて、まだ一年も経っていないのに恐ろしいほどの待遇の変化だ。
召喚されてから、今までの事を考えると、素直に喜んで良いものなのか疑ってしまう。
散々持ち上げられた後に、一気に奈落に叩き落されるのではないか……なんて思ってしまうのは俺が捻くれているからだろうか。
戦争奴隷から解放された後、ここまでのフルメリンタの待遇は概ね良好だったと思うが、どうしても心の奥底から信じる気にはなれない。
戦地を離れてから十五日目、ようやく辿り着いたフルメリンタの王都ファルジーニは、大きく蛇行した川に囲まれた城下町だった。
王城は街を見下ろす高台に建っていて、俺達は麓にある軍の施設に入った。
「あぁ、やっと到着か。尻が割れそうだったぜ」
「まったくだ」
三森がボヤくのも当然で、表彰してくれるという話だが、道中は軍の荷馬車だったので、乗り心地は良くなかった。
施設に着いて、部屋に案内されて荷物を置いたら、まずは採寸が行われた。
表彰式に出るための衣装を仕立てるらしい。
てっきり吊るしの衣装だと思っていたのだが、国王と謁見する式典とあって、ちゃんとした衣装が用意されるらしい。
採寸が済んだら、風呂に放り込まれ、髪や体をガッチリ洗わされた後、散髪や爪の手入れなどをされた。
宿舎で用意された食事は、兵士としては上等なもので、幹部クラスが食べるようなレベルに思えた。
「新川、なんだか随分と待遇が良くねぇか?」
「そりゃ表彰する人間を雑には扱わないだろう」
「そうなんだけど……」
「居心地が良くない?」
「そうなんだよ。兵士の雑さ加減の方が楽だったな」
「まぁ、表彰が終わるまでだろう」
宿舎で一夜を明かした翌日、藍色の髪を綺麗に整えた男が俺達を訪ねてきた。
「初めまして、キョーイチ・シンカワさん、タクマ・ミモリさん。私は宰相のユド・ランジャールと申します」
「どうも、初めまして。新川です」
「三森です、初めまして」
宰相と言えば、国王の片腕的な人間なはずだ。
ユドが来訪した理由は、表彰に関しての事前の確認だった。
「明後日に行われる式典において、お二人は名誉子爵に任じられることになります」
「名誉子爵……ですか?」
「はい、現時点では領地の割り当てが行えませんし、お二人の希望も伺っていないので、とりあえず名誉職とさせていただきます」
いきなり貴族になってしまうようだが、正直どう答えて良いのかも分からない。
三森と顔を見合わせて首を捻ってしまった。
「あの、領地をもらって地方の貴族として暮らす……みたいな事も可能なんでしょうか?」
「もし、シンカワさんがお望みであれば、ご希望に添えるように手配いたしますが……」
「いいえ、聞いてみただけで、領地経営のやり方とか全く分からないので、やめておきます」
「それならば、実務に明るい代官を紹介いたしますが……いかがしますか?」」
「いえ、やめておきます。それよりも、鍛冶師などの仕事ができないかと考えています」
「鍛冶ですか?」
「えぇ、自分は土属性なので、それを活かして物を作る仕事がしたいと思っていますので」
「なるほど……分かりました。そちらも考えておきます。それと、王都でのお住まいはいかがいたしますか?」
「今の部屋でも十分ですけど」
屋敷を斡旋すると言われたが、こちらも保留してもらうことにした。
「あの、霧風にはいつ会えますか?」
「表彰式の後を予定していますが、いかがですか?」
「それで結構です」
式典には霧風も出席するそうなので、終わった後は自由にして良いと言われた。
ようやく霧風と再会して、礼を言えそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます