第13話

「えっ……レティシア様が!?レティシア様はご無事なんですか!?」


「えぇっと、まず一から状況を説明すると、発火事件が起きてすぐに、レティシア様は隣国へと帰国なされた。

 身の危険を感じられたのだから当然だな。それが数日前の出来事だ。そして今朝新たに、レティシア様のお部屋に飾られてある、絵の中に謎の文字が浮かび上がるという現象が起きていた」


「こ……怖いです……」


 レオネルの話からするとレティシア自体は無事のようで、一先ずそこだけは安心した。


「絵を別室に移動させたから、書かれてる文字を解読するようにと殿下からのお達しなんだ。今から文字をメモしに行こうと思ってな」


「レティシア様が、殿下の婚約者である事に不満を持っている者の犯行でしょうか……」


「その可能性は高いとみている。それか隣国との亀裂を産みたい何者か……」


「そんな……」


 王族の政略結婚における重要な目的の一つは和平にある。王族の血が流れる隣国の公爵令嬢であり、婚約者のレティシアを危険に晒すとなると、長年の友好関係が壊れる可能性がある。

 もしもの恐ろしい未来を想像してしまい、不安は拭えない。


 レオネルを先頭に、その後ろからシルヴィアとテオドール。三人で絵を保管している場所へと向かう道中、テオドールがとある疑問を口にした。


「そういえば、ルクセイア公爵閣下との結婚生活は順調なのか?」

「え?旦那様ですか?全然家に帰って来ないですけど、仕事が忙しいとかで」

「え」


 これにはテオドールと、前を歩いているレオネル二人同時に固まった。


「まぁ私は快適に過ごしてるから、特に気になりませんが」

「それで良いのか……」


 戸惑う男二人を気に留めず、シルヴィアは歩みを進めた。そして部屋の前まで辿り着くと、まずレオネルが扉をノックする。


 絵の調査に来た事を告げると、中から「どうぞ」と涼しげな声が聞こえた。


「失礼致します……!」


 驚いた様子のレオネルを不思議に思いつつ、長身のレオネルを避けるように、部屋を覗いたシルヴィアは驚き目を見張った。

 中に居たのは紺色の制服に身を包んだ、美しきワインレッドの髪の騎士。


「旦那様……?」

「シルヴィア、どうして王宮に?」

「えっと……調査に……」


 現在シルヴィアは、結婚後の休暇に入っている。夫、アレクセルはその事を知っているからこその質問である。公爵夫人生活に少し飽きてきて、気分転換に王宮へ来てみたなどとは言い辛い。


「そうですか、私は殿下から魔術師方の護衛をと頼まれております。どうぞ」



 部屋へと通してくれたアレクセルに対しシルヴィアは「旦那様って、本当にお仕事していたのですね!?」と言う言葉を必死に飲み込んだ。

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