第42話 作戦会議
リオンヌ伯爵家を訪問してからひと月、アレクシアはここ最近ずっと同じ事で頭を悩ませていた。
(時々お菓子の差し入れして先週ウチに遊びに来たリオンヌ兄弟もバッチリもてなしたけど、優しさアピールってどないしたらええの!? 昔の少女漫画みたいに捨て猫拾っとるとこ目撃される的なイベント起こらんやろうし……!)
夕食後に自室でニコルがお茶の準備をしてくれていると、ノックが聞こえた。
思い切ってリリアンとレティシアにマクシミリアンが好きだと告白して、一緒に作戦を考えてもらおうと計画したのだ。
メイド3人には食堂で夕食を摂ってきてもらい、その間にこっそり作戦を考えてもらうつもりでいる。
紅茶に口をつけてリリアンがおもむろに口を開いた。
「で? 何か相談があるんでしょう? 今日は朝からソワソワしていたし、わたくしとレティの方をチラチラ見ていたもの」
「そうね、あんなに落ち着きの無いアレクは珍しいわ」
「あはは、2人にはお見通しだったのね。実は……、好きな人がいるのッ! きゃー! 言っちゃった!」
赤く染まった頬を両手で挟んで身を捩らせる、男性が見たら悶えそうな可愛い仕草を2人はポカンと眺めていた。
「2人ともどうしたの?」
アレクシアの声に我に返る2人。
「は? どうしたのはこちらのセリフですわ! いったい相手はどこの誰なの!?」
「そうよ! セザール様や第2王子すら気に掛けないアレクが特定の殿方と居るところなんて……、一緒に過ごして……まさか……、いえ、そんな訳ないわよね……」
レティシアはとある人物が頭に浮かんだが、ありえないとばかりに首を振った。
アレクシアはレティシアの呟きでバレたと覚悟し、その名が出てくるのをドキドキしながら紅茶に口をつけた。
「レティは誰なのか分かったの? セザール兄様だというならわかるけど、そうじゃないみたいだし……。レティ、一体誰だと言うの!?」
「アレク……、人の気持ちは止められないのは分かるけれど……、いくら大好きでもオーギュスト様はお兄様なのよ!?」
「えぇっ!?」
「ブゥッ!!」
リリアンの驚きの声と同時にアレクシアは口に含んだ紅茶を吹き出した。
「アレク、本当なの!?」
「だって、いつもお昼休みは嬉しそうに一緒に食事を取りに来て中庭に向かっているし……」
「ゲホッゲホッ、ち、違う! 私が好きなのはマックスよ! マクシミリアン・ド・リオンヌ!」
「「はぁ!?」」
紅茶を吹き出すという令嬢としてはありえない事をやらかしたアレクシアだったが、2人の反応も十分令嬢としてはありえなかった。
最低限の取り繕いすら出来ない程驚いたのだ。
「マクシミリアン様というと剣術で常に1位だって有名だけれど……。私が言うのも何だけど、この学園で1番の
「わたくしは実際にお会いした事はありませんけれど、セザール兄様の話題に出て来た事がありますわ」
「私にとっては誰よりも素敵な人なの、優しくて紳士だし、剣術の腕も1番だというのに
アレクシアは指先をモジモジと合わせながら最後まで言うと、真っ赤になった顔を両手で覆った。
((可愛い……!))
今まで見てきたどの瞬間よりも可愛い姿に胸を貫かれた2人は、アレクシアが幸せであるならどんな事でも協力しようと心に決めた。
「ではそのマクシミリアン様に想いは伝えたの?」
リリアンは前のめりになって問いかけたが、アレクシアは返事の代わりに重いため息を吐いた。
「それは……まだなの。だって私の事は友人の妹としか思ってないはずだし……、それにいつもオーギュ兄様と一緒だから言いたくても恥ずかしくて言えないわ……! それでマックスに好感を持って貰って想いを伝える作戦を一緒に考えてほしいのよ!」
アレクシアは手を胸の前で組んで、瞳をウルウルさせながら2人に懇願した。
「わたくしはそうやってお慕いしていますって伝えれば、全て上手くいくと思うのだけれど?」
リリアンは同意を求めるようにレティシアに視線を投げた、その視線を受け止めてレティシアは頷く。
「ええ、アレクがそうすれば世の中の大抵の殿方は堕ちると思うわ。むしろ殿方じゃなくても堕ちると思う」
「そっか……! 考えた事も無い相手でも告白されたのをきっかけに意識し始めるってやつね! わかったわ、何とか2人きりになれるように計画して告白してみる! 2人とも協力よろしくね」
グッと拳を握ってやる気を出しているアレクシアに、リリアンとレティシアは「そうじゃない」と言えずに呆れた目を向けた。
そうこうしているとメイド達が戻って来たので作戦会議はお開きとなり、各自部屋に戻って行った。
茶器の片付けをしていたニコルに紅茶で濡れた床について聞かれたが、吹き出したとは言えずに少し零してしまったと誤魔化したのだった。
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