21 ▽酒樽「解せぬ」▽




「ちょっとお~? ここのスペースはワタシらが使うのよお~? アンタらレンボロちゃんは黙ってアタシらの靴でも磨いてなさあ~い?」


「はあ!? 誰がそんなことするかよ! だいたいなあ、ここではオレたちの方が先輩なんだぞ! あとそのレンボロってのいいかげんやめろよな! レンブルフォートだ!」


またやってる。ニキータとフランタルから来た男の奴隷だ。


どんなのが来るかと思ったらこんなムキムキマッチョの大男が来るとは。数で不利になることはないと見込んでいたけど、全然勝てる気がしない。ニキータは果敢にも戦いを挑んでいる。ちょっと心配だ。


「あらあ~? レンボロちゃんの分際で随分生意気な口きくのねえ~? その首のゴッツう~いチョーカーは何なのかしらあ~? 似あってるわよお~レンボロワンちゃあ~ん??」


「て、テメエ!!」


止めに入ったほうがいいかな?


「…まあまあ、その辺で…」


フランタルの大男が僕を見る。


「あらあ~この子はそこのワンちゃんと違って素直ねえ~じゃあ、あそこのアタシの靴、全部磨いといて貰えるう~?」


「分かりました」


「おい、アナスタシア! あんまり言うこときくんじゃない、なめられるぞ!」


「ま、まあ、今日ぐらいは…」


「それがだめなんだよ! こういうのはどんどん調子のるんだからな!」


「いい加減黙りなさあ~い? 館長に言いつけるわよお~? どんな仕事させられるか分かんないわよお~? とお~んでもない客の相手させられるかもお~?」


「待ってください! 僕、ちゃんと磨きますから」


「そう~? じゃあ開店までにお願いねえ~? 汚れ残ってたら最初からやり直しだからねえ~?」




▽  ▽  ▽




「…くっそ! くそ!」


仕事終わり。ニキータが店の裏で空の酒樽を蹴りまわしている。


「…だ、大丈夫?」


「大丈夫なわけあるか!…あいつら、フランタル人だからって威張りちらしやがって! 同じ人間だろ!」


ガン!


ニキータがもう1回酒樽を蹴る。


「いったあ!」


ニキータがつま先を押さえてうずくまる。ちょっと痛かったみたいだ。


「…ニキータ、大丈夫?」


「…アナスタシア、お前はムカつかないのかよ? あいつらに!」


「うーん…そりゃまあ、ムカつくよ」


「だろ!? ムカつくだろ!? お前もっと怒っていいぞ!」


「そうだね…」



僕は酒樽の前まで行く。


「…ムカつくよね!」


僕は思いっきり酒樽を蹴り上げる。


ガァァン!


酒樽が転がって逃げる。すまないな、君に罪は無い。でもやらせてくれ。


「…ア、アナスタシア?」


「あの野郎!」


僕はもう一度酒樽を蹴る。


ガン!


「あいつ、結局3回も靴磨きやり直させやがって!」


ガン!


「ほんとあったまにくるわ!」


ガン!


「お、おい…そのくらいにしとけ…酒樽がかわいそうだろ…」


「ハア…ハア…そ、そうだね…」


僕はニキータに向かって微笑む。


「…ニキータ、楽しいね?」


「…はあ?」


「ふふ…」



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