2 ▼ぼうぎょりょくはとてもひくそうだ! だがこうかはばつぐんだ!▼
「お目覚めですか? 殿下」
まだ意識が朦朧としている。がたがたと揺れている。馬車の中のようだ。少し開いた窓から流れる外の景色が見える。暗い夜の森の中を走っている。
どうやらまだ地獄には落ちてないようだな。
隣に兵装の男がいる。今話しかけたのはこいつか。
「…どうなった?」
かろうじて喋ったがうまく口がまわらない。
「我々はこれからフランタル王国へ向かいます」
「王国へ?」
フランタル王国は海を挟んでレンブルフォート帝国に隣接する巨大な王国だ。優れた女王の統治と自由経済で繁栄している。
「…あんたは?」
「私は王国軍の軍人です。帝国内でずっと諜報活動をしていました」
王国のスパイか。初耳だ。
なんで王国が俺を助けるんだ?
「殿下、銃口を向けてしまい申し訳ありません。無礼をお許し下さい」
ああ、あんたが。あの撃たなかった兵士か。正装の鎧だったから顔は見えなかった。
「いや、俺は大丈夫」
ということにしておく。
その後、少し話を聞いたところによると、処刑場であの後、王国のスパイ達が反乱を起こし、そのどさくさに紛れて俺を助け出したらしい。
「少し遅くなってしまいました。予定では刑執行前までに殿下をお助けできるはずだったのですが。何とか間に合ってよかった」
ジラードがいらだって命令を叫ぶ声を思い出す。
撃て!
撃て!
撃て!
…
間に合ってないだろ。
「…遅いわ」
俺は再び睡魔に襲われる。ひどく疲れている。大量に飲んだ睡眠薬もまだ効いているのかも。
「も、申し訳ありません、殿下」
安心したのかな。
「助けてくれて、ありがとう」
俺は眠った。
▼ ▼ ▼
馬車が止まる。王国の兵士が外へ出るよう促す。
「大丈夫ですか? 立てますか?」
「…ああ」
俺は兵士に支えられながら、よろよろと起き上がって外に出る。小さな村落だ。家や店にあたたかな明かりが灯っている。
「今夜はここで身を隠します。明日には船の隠してある港まで辿り着くはずです」
帝都の混乱はここらの田舎までは影響していないらしい。
「これを着てください。絶対に顔は見せないように」
フード付きの大きな灰色のマントを渡される。ちょっと怪しいが…仕方ない。俺はマントをはおり、フードを深く被って顔を隠しながら、王国の兵士たちと一緒に一軒の宿へ行く。
大丈夫かな…
宿の主人に少し睨まれたが、兵士がうまく部屋をとってくれた。
疲れた…
ベッドに座る。少し感触がかたい。宮廷で使っていたベッドに比べれば粗末だが、地下牢よりははるかにマシだ。俺は横になる。
俺はこれからどうなるのだろう。いろいろありすぎて考えがまとまらない。
また少しうとうとしてくる。とりあえず一晩ここでゆっくり眠れるんだ。
意識が落ちようとしたその時。
…?
何か気配がする。
俺は耳を澄ます。
…!!
外が何か騒々しい。俺は部屋の窓まで駆け寄る。兵士らしい人物たちがあわただしく動き回っているのが確認できる。
「…いいか、注意深く探せ! この辺りにいる可能性は高い!」
…帝国の兵士、追っ手だ! しまった、気づくのが少し遅かった。今慌てて外に飛び出しても捕まってしまう。どうする!?
俺は急いで部屋の中を物色する。何か役に立つ物はないだろうか。
テーブルの上の花瓶。武器になるか? いや、勝てないな。
探せ。探すんだ。
タンスの引き出しを開ける。
…
一着の真っ白な女物のワンピースが出てきた。
ひらひらしている。
…
防御力低そうだな!
「…おい、ここも調べろ!」
…!!
▼ ▼ ▼
ドン! 扉が乱暴に開けられる。
俺は両手を上げて、抵抗しないことをアピール。
後ろからさらに別の兵士がやって来る。
「どうだ、いたか?」
「…いや、女が一人だけだ」
兵士たちは去って行った。
…
いや、ばれないのかよ! ワンピース着ただけだぞ! 俺!
まあ確かに俺、髪長いけど…これはレンブルフォート皇族男子の伝統でそうしている。俺の場合、女物の服を着るとそのまま女子になる。
少しして、さっきの王国の兵士が部屋に来る。
「…さすがです、殿下。うまくきりぬけましたね」
いつも来るのが少し遅いな!
追っ手たちはその後もしばらく村を荒らした後、去って行った。
勢いで女装してしまったが、逃げるには都合がいいかもしれない。しばらくこのままでいるか。
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