スーパーワイフ

ルク穴禁

第1話(お隣さん)

ここは下伊那(しもいな)のとある田舎町。遅い昼飯を求めてリュウは彼女のヤコを連れて近所のパン屋〝藤原パン店〟に寄った。おばちゃん店主が1人で切り盛りしていて、40年ほど続いてる人気店だ。棚には美味しそうなパンが並んでる。リュウはトングとトレーを持ち、パンを選ぶ。ヤコはリュウの後を付いて回る。


「ここのパン屋さん、久しぶりに来たよ~」

「そう? ヤコと来るのは初めてだったかな」

「元カノは連れてきてたのね」

「トゲのある言い方だな。家族とよく来てたんだ」

「ごめんごめん。何がオススメなの?」

「やっぱ、じゃがバターパンだな」

「じゅるり。ネーミングだけでヨダレが垂れそう」


リュウはじゃがバターパンを2つとチョココロネを2つトレーに乗せて会計をする。おばちゃんがレジに立つ。


「いつも買ってくれてありがとね。リュウちゃん」

「藤原のおばちゃんも元気そうで良かった。また来るよ」


リュウとヤコが店から出ると、柴犬が1匹軒先にリードで繋がれていた。


「ワン!」


「可愛い~。ここのパン屋さんの犬かな」

「他に客は居なかったから、ここのじゃないの」

「メスかな? オスかな?」

「どっちでもよくない?」

「メスだと看板娘だけど、オスだと看板……看板息子?」

「オスでも看板娘さ」

「それなんかおかしくない?」

「動物界のLGBTQってことで深く考えないよにしとこうぜ。さ、帰ろう」

「うん」


リュウは運転席に。ヤコは助手席に乗る。リュウのマイカーは、マニア垂涎の日産R32スカイラインGTRの後期型だ。今はもう生産されてない。新車価格は450万円ほどだったが、状態の良い玉だと2000万円を超えるテンションブチアゲな車だ。それはアメリカの道路交通法が影響している。生産終了から25年経つと、基本NGな右ハンドルと排ガス規制をパスできるから、ファンキーなアメリカ人が大量輸入している。


リュウはヤコの膝の上にパンが入った紙袋を起き、自宅マンションに向かって運転する。


「暖かいな~」

「暖房入れてないよ」

「膝上のパンよ。抜けてるわね」

「わりぃわりぃ」


リュウの自宅マンションは3階建てで最上階に住んでいる。祖父母が地主で不動産を幾つか所有していて、リュウはその一部を生前贈与してもらった。リュウは21歳にしてロイヤリティで暮らしてる。大家も兼ねて。GTRも車好きの祖父から譲り受けた物だ。


リュウとヤコは部屋に帰ると、早速リビングでじゃがバターパンを食べる。ホクホクのじゃがいもにひとかじりで溢れる溶けたバター。ヤコは初めて食べて虜になった。


「これ、めっちゃ美味しい!」

「だろう。あのパン屋にハズレはない。また今度いこうぜ」


ピンポーン。リュウの部屋に来客だ。


「誰かな」

「今日、お隣さんが入居するって聞いてたから多分」

「金づるね」

「言い方」


リュウはヤコをたしなめるように言ってから、インターホンを見る。小柄で華奢な女の子が映っていた。麦わら帽子を被ってて顔はよく分からない。


『こんにちは。隣に越してきたアキと言います』

「どうも。今、開けますね」


リュウはドアを開けてアキの顔を見ると可愛い子だった。

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