行方の不確論

「ああ、コウくんのこと?」


 私が言うと、チヒロはうなずいた。


「そう」


 私はチヒロに少し聞いてみた。


「コウくんは最近どうしてるか、わかる?」


「わかんない」


 チヒロは即答する。


「なら言わないでよ」


「なんで」


「コウくんの最後の連絡にも、「死んだものと思ってください」ってあったでしょ?コウくんはもういないんだよ?」


「でも……」


「コウくんがいたら、とかそういう話はもう仮定、Ifルートでしかない。私たちは私たちの力でなんとかするしかないんだから」


 コウくんがいないことへの焦りが、自分の言葉に張り付いている気がする。それでも私は、コウくんがいないと言うしかなかった。沈黙のあと、チヒロが口を開く。


「コウくんってなんでいなくなったんだろ」


「わかんないよ、そんなこと」


 私が応えると、チヒロは予想外の発言をした。


「先生に聞いても分かんないし」


「先生に聞いたの?」


 私は驚いて言う。チヒロはうなずいた。


「うん、三回ぐらい聞いたよ」


「で、結果は?」


 私が言うと、チヒロは首を振った。


「名簿も見せてもらったけど、いなかったことになってた」


 何かがおかしいと思った。私はそれに問い返す。


「どういうこと?」


 チヒロはボソリと返した。


「最初からコウなんて人はいなかったって」


 私は少し不安になった。この前来たLINEは何だったんだとも思ったが、よく考えてみれば不自然ではないとわかった。


「学校側の資料にもないの?」


 慌てたそぶりで聞いてみると、チヒロはうなずいた。


「うん、名簿は全部見せてもらった」


「……首突っ込みすぎじゃない?」


「でも……私は本当のことが知りたい」


 私はチヒロを茶化してみた。


「チヒロ、ミステリー小説なら絶対最初に死んじゃう人だよね」


「なんでよ」


 チヒロが困惑して返す。


「探偵でもない限り、事件に深く首を突っ込んだ人はいなくなるでしょ」


「私が探偵かもしれないじゃん」


 チヒロは明るい声でそう言った。


「チヒロが探偵ルートはあり得ないと思うけど」


「ええ?私、一応色々自分で調べる方だけどなぁ」


「知識が伴ってないよね」


 すぐにチヒロに返してしまった言葉は、割と重かった。しかし、私はまだやめなかった。


「えっと……ディスってる?」


 そう言うチヒロに、私はコウくん探偵説を押しつける。


「しかも、探偵の失踪はだいたい次につながるストーリー上の鍵になるよね」


「ん……?」


 私はLINEの内容を小出しにして伝えはじめた。


「コウくんは自らどこかに隠れたんだと思うよ」


「それ……証拠あるの?」


「うん。コウくんはいなくなる前に、『僕が消えても心配しないでください。いつか帰ってきます』って言ってたから」


 私の言葉に、チヒロは少し怒った。


「なんでそれをもっと早く言わないの?」


 私はチヒロをなだめようとする。


「コウくんは……『ぎりぎりまで伏せてください』って」


「もしかして、コウくんからの連絡が来てた……ってこと?」


「うん」


「メッセージはなんなの」


 チヒロは問い詰めてくる。私は説明を省略して言った。


「まだ言えない」


「なんで」


「……時期が来るまで伏せておけって」


 私がそう言うと、チヒロは少し悲しそうな顔をした。


「アヤナはどうして……どうしてそんなにコウくんに信頼されてるの?」


「違う、そんなことないから!私だって……」


 私は必死に否定する。チヒロがのけ者だったなんて言いたくなかった。


「……なら、なんで」


 私はまた少し、事実を切り出した。


「私はコウくんと約束したから」


 チヒロはそれに、首をかしげる。


「どんな約束?」


「それは秘密」


「秘密、ねえ」


 チヒロの顔は、とても悲しそうだった。

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