第6話


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第6章. Memories.

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奴は続けた。


「考えてごらんよ。おじいちゃん。あなたにとってこの世界は全くUnknownだ。あなたはなぜ警察になろうと思ったの?射撃が上手いから? いつから優秀なの?最初は違ったでしょ。 それにあなたが見てきた激流のようなこの世界の変貌…国民はよく認めたよね?あんな僅かな人数でのテロ(一二・二六事件)もよく成功したもんだ。そうそう!たった数ヶ月で瞬間睡眠剤って作れるものなの?C0VID-19の歴史をもう忘れたのかな?注射後20年で世界人口がたった半分になっちゃったじゃない?それに…」


「うるさい!五月蝿いぞ‼︎」


なぜか頭が真二つに割れそうに痛い。数年振りに眠ったから…ではないようだ。


ウググ、 俺はー


ー奴はため息をついてまた話始めた。


「…あなたは記憶を書き換えられたんだよ。

北条政権が日本人の記憶を”SANY0電機本社Cloudサーバー”で管理してて、

そこの記憶をいじってCO2通信(二酸化炭素移動通信システム)で同期するんだ。するとそれが上書きされて本物の記憶になっちゃうんだ…」


「ひどい話だよ。ねぇおじいちゃん。」


何だ…。コイツは何を言ってるんだ。

それに頭痛の合間に挿絵の様に知っているかどうかもわからない様な映像が頭に飛び込んでくる。


たまに起きる現象で、よく観るAmazflix動画の影響かと思っていた。…違うのか?



ーそしてこれまでにない痛みが頭の中を走り始める。




うああ!!ぎゃあああ!!


「…さっきcloudの同期を切ったんでローカルのあなたの脳が元の記憶を復元し始めてるんだよ。僕も痛かったな。まあでもそのまま僕の話を聞いててよ。たぶん知らないこともあるだろうし。」


頭の中心がヘラで掻き回されている様でそれどころではない。


ーしかし聞いておくんだ。




「…今の記憶だとあなたは昔パパからAIを買って貰ったよね?話しかけたり手伝ってくれるやつ。」


確かにそんな事もあったな。


「その思い出偽物だよ!本当は僕があなたに送ったんだ。しかももっと最先端のAIロボットを。」



まだ頭痛は酷い状態だが、断片的な映像がパズルのピースの様にのろのろとだがしっかりと繋がってきて、

その一瞬だけはなぜか心地良かった。



男は続けた。

「あ、でもそいつと過ごした日々の、友情物語とかは後で自分で思い出して。面倒くさいから話さない。で、そいつは帰り際にちょっとしたアイテムを置いて行ったんじゃない?」


「あれは過去から未来に帰る時にAI達が置いて帰るのが当時流行ってたもので、あ!思い出してきた!?」


自分が思い出したくないと思っていた過去が徐々に蘇る。記憶の復元とやらが益々進んで来た様だ。



記憶にある思い出を俺は話した。

「…そうだったな、多分…俺には仲の良いロボットがいた。そしてそいつが帰る時にウソを言うとその逆になると言うドリンクを飲んだ。しかしその時の俺が何を言ったのかは…。」


奴は言葉を遮った。


「それもウソだから。実際ドリンク自体には何の効果もなかったんだ。そのドリンクを開ける時に蓋を回すとAIに音声が飛ぶ様になっていて、パラサイト…とにかく宿主だった主人の最後の望みをAI達が未来で聞いてゲラゲラ笑うっていう趣味の悪いジョークグッズなんだ。」


…。


「…だけどあなたのAIは忠実だった。おじいちゃんの望みは絶対だと。でも厚い友情が邪魔をしてあなたがバカである事を忘れていた。あべこべじゃなくて望みをそのまましゃべるなんて事は考えつかなかったんだ。」


俺は言った。


「あの…一言が?」


「未来に帰った後AIロボット達の多くは国務に従事した。その中でも1番出世、いや野心を実現したのはあなたのAIだよ。あなたの望んだのとアベコベの世界…人間が全く寝ない世界を熱望した。そしてAIらしく正確に、血も涙も入る隙のない方法でそれは実現された。」



「…良かったじゃない。おじいちゃん。寝れないから勉強して優秀になれたし、射撃の腕前も活かせる刑事になれたし。もう尊敬こそすれ、今やバカにする奴等はこの世にいない。…ここは今も正に更新中の“あなたの世界”だからね。」






復元は終わった。






刑事である俺が持っていた就寝者への怒り、

寝てばかりでバカにされていた子供の頃の記憶、

強引に強行採決されていった常識のない法案への無関心。


全てが繋がった。


これからどうする?



感傷に浸ってはいられない。

俺にはその権利すら無い気がした。



「…取り戻しに行こう。マトモだった世界を。」




「俺を仲間にしてくれ。Sewash。」



「思い出してくれたね。お帰り。おじいちゃん。」


(続く)

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