第2話
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第二章 Re:birth.
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俺はバタフライ効果なんて信じない。地球の裏側の些細な出来事が反対側の大災害の原因になるなどとは信じ難い。
しかしーそんな事件が2113年に起きた。
それはある1人の男の交通事故から始まった。別に珍しい事ではなかった。自動運転システムの故障やCO2濃度異常での通信エラーは今でも稀に起こる事だ。また、不健康な人間やネムを利用しない不眠の人間が自分でクルマを運転しようと思ってもカーアプリケーションが運転を拒否するセキュリティが掛かっており、今は運転者の判断ミスでの事故は皆無に等しい。
しかし“その日”それは起きたのだった。
国内セキュリティ会社のall-suckが高麗朝鮮帝国のサイバー攻撃を受けて車を含めた様々な機器のセキュリティが機能不全に陥ったのだ。
“その日”ーネムを使用しない状態でその男は運転席に座った。
男は自分で車の運転をするのが好きで、
“その日”もハンドルを握った。先のセキュリティ不全により車は運転が可能だったのだ。そしてネムを服用せずに2日間働き通しだった彼は過労により居眠り運転をし、ハンドルにもたれかかりながら買い物客で賑わう朝3時のショッピングモールに突っ込んだ。
17人の死者と5人の重軽傷者を出し、モールの1/6程を焼失させた。男は即死だった。
痛ましい出来事にもかかわらず、隣国との関係悪化を恐れた政府がall-suckに隠蔽を命じ、運転者の男が車検をスルーした違法改造車に乗って起こした単独事故だと処理した。
しかし事件はここで終わらなかった。
納得のいかない被害者の1人が、男がネムを服用しなかった証拠を見つけ、それをScandal(スキャンダル:SNSサービス)で拡散し始めたのである。
“ネムさえ飲んでいたらこんな事は起こらなかったんだ”
“男は寝ていたんだ”
“居眠りだ!眠っていたんだぞ!”
と。
この声は瞬く間に広がり、それ以後はネムを服用することーすなわち起き続ける事は健全な社会生活に於いて必然で、睡眠は悪…それ自体が性やエゴの様に克服すべき人間の業(わざわい)という風潮になっていった。
“なぜあなたは未だに眠るのか?”などマスコミや社会は睡眠をとる者を叩き、それらを弱者だと罵る。
社会的制裁はエスカレートしていく。
睡眠ポリスを名乗る個々人が自主警察よろしくやはり個人を監視し行動を正していく社会になっていったのだった。
そして歴史は動いた。
これら多くの国民の声を取り上げた、1人の自衛隊幹部(ネムを活用し出世コースに乗っていた北条英機自衛官)率いる小隊が国会に乗り込み、数人の死傷者は出したものの、2116年12月26日、あっさりと軍事クーデターを成功させた。(十二・二六事件)。何もしない政府を軍部が見限ったのだ。
男の事故から僅か2年の出来事である。
これをバタフライ効果と言わずに何と言おう?1人の交通事故をきっかけに政府が転覆したのである。
全ての、いや大部分の日本国民は軍統制ではあるものの、今までの考え過ぎで何も出来ない政権よりも、いち早く民意を汲み取って行動する新生日本軍国の誕生を歓迎した。
新政権はまず許可なく睡眠をとる者を重罪にし、改変したネムを使って誰もが自分の意思で眠れなくした。そして睡眠時間は国の専売特許として秒単位で切売りするものとした。また“夢”と付く書物を燃やし、データは消去した。思想改造にも積極的に着手した。
「おやすみなさい」は反体制ワードとし、発した者は取調べと再教育の対象とした。
もちろん就寝場所を未許可で人に貸し借りしたり、または作ったりなどという事はテロに値する極刑になった。
これが
日の出る国(The land of the Rising sun)
改め
日の沈まぬ国(The land of the Unsinkable sun)
ー新しい日本国の誕生、である。
そしてこの俺は
理想の社会で違法就寝者を取り締まる、
“Sleep Cop ~睡眠捜査官”
なのだ。
(続く)
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