第45話「太鼓判」

バスチアン一味を見事に捕縛ほばくしたディーノは……

ギルドマスター『炎の飛燕』ミルヴァ・ラハティ及び配下の冒険者一行と共に、

意気揚々と王都へ凱旋した。

ちなみにケルベロスとオルトロスは「お疲れ様」という事で、

ルイ・サレオン魔法指輪の中へ戻って貰っている。


ミルヴァは衛兵隊本部へ直行、バスチアン達を引き渡し、経緯事情を説明した。


王都へ連行前に砦では、ミルヴァがバスチアンを直接、また配下の冒険者が側近に対し、徹底的に尋問した。


それ故、大体の状況は把握していたので、衛兵隊へ説明するのに何ら支障はなかった。

ディーノもミルヴァの傍らに居て、衛兵隊長へ補足説明を加えたのである。


そんなこんなで事務処理が終了、緊急召集されたミルヴァ配下の冒険者達は解散した。


そんな中、ディーノは、ミルヴァから『話』があると言われ、そのままギルドへと赴く。


ミルヴァは、ディーノをギルドマスター室へ連れて行った。

マスター室ではサブマスターのブランシュが待っており、3人はいろいろと話し込む。


ディーノはサブマスターのブランシュから今後の話を聞いて、

少し暗い気分となった。

 

散々悪行を犯した報いとはいえ……

首領のバスチアンは勿論の事、彼の配下の殆どが、

裁判の結果、王国の法律により『死罪』になる確率が高いと知ったのだ。


だが、ミルヴァは言う。


「ディーノ君、貴方は優しいね。でもさ、被害者と遺族、被害者の友人、仲間が受けた大きなショックと悲しみを考えてみて」


「はい……」


「必死に命乞いをしても、被害者はバスチアン一味に情け容赦なく無残に殺されたり、奴隷として遠国へ売られたわ」


「…………」


「今回、ディーノ君が奴を捕えていなければ、犠牲者、被害者はどんどん増えていた。いずれ誰かがやらなくてはいけなかった」


「…………」


ミルヴァの言う通りだ。

とディーノは思う。


いずれ誰かが、バスチアンの悪行を止めねばならなかったと。

それがたまたま、討伐依頼を受けた冒険者の自分だったのだと。


「バスチアン一味の討伐とうばつって、本来は王都騎士隊、衛兵隊の仕事だけど、彼等の手が足りず、私達冒険者は、彼等の役割を代行する形をとっているわ」


「…………」


「つまり貴方は、王都騎士の代わりに戦ったのよ、後ろめたい事なんか何もないわ」


「…………」


「それに貴方を含め、各所から詳しい話を聞いたけど、ディーノ君はバスチアンと1対1で戦ったんでしょ?」


「ええ、タイマンを張りました」


「ならば! 貴方は凶悪な山賊と正々堂々と戦ったわ。胸を張って良いと思う」


「…………」


「攻略に際し、召喚した使い魔の力を借りたとしても、たったひとりであの砦に殴り込んだのはとんでもなく凄い事だと思う」


と、ここでブランシュが「びっ」と勢いよく手を挙げた。

そして、


「私もそう思います! マスターと同意見です!」


「ブランシュさん……」


「ディーノさん、マスターから今、話を聞き思いました。バスチアンの自供によれば奴の配下は100名を楽に超えていた……という事ですよね?」


「ええ、それくらい居たと俺も思います」


「それくらい? しれっと言いますね、ディーノさんは」


「…………」


「常識的に考えたら、デビュー前の冒険者、それも弱冠15歳の貴方がひとりで倒せる人数ではないのです」


「…………」


「最初マスターから依頼の内容を聞いた時、私は山賊30名の討伐でも無茶だと思いました。下手をすればディーノさんは死ぬかと……」


「…………」


「ふたを開けてみたら何と、山賊の人数は依頼した3倍以上。それなのに協力者や他クランの助力は一切なし、だけどディーノさんはたったひとりで依頼を完遂してしまったのですから!」


「…………」


ブランシュは大いにたたえてくれるのだが……

依頼を完遂出来たのはケルベロスとオルトロスの力があっての事だ。

けして、自分ひとりの力ではない。

謙虚さを絶対に忘れてはいけないと、ディーノは思う。


しかしブランシュの称賛はなおも続いている。


「ディーノさんは私の想像を遥かに超えるスケールの持ち主です」


「…………」


「マスター、私は推薦します。強力にします。ディーノさんはランクB、すなわち文句なしの上級ランカーだと!」


「…………」


「私も、ブランシュと同じく文句なしに認めよう」


「ミルヴァさん……」


「薄々感じていたと思うけど、今回の任務は冒険者としてディーノ君の持つ分析力、判断力、交渉力、行動力等、様々な能力発揮に期待したのよ」


「…………」


「私だって自分で発注しながらも無茶な依頼だと思ったし、もしかしてネリーにも止められたんじゃない?」


「…………」


「でも私は信じていた、貴方はやり遂げるって」


「…………」


「ディーノ君は私の出した依頼内容を綿密に分析し、的確な判断をして、上手に交渉する。折り合い契約した適任の助力者を得て、見事依頼を完遂させる、そんな予想をしていたわ」


「…………」


「面談していて感じたの、貴方には間違いなく素晴らしい才能があるって」


「…………」


「案の定、私と引き分けた体術は文句なしだし、この依頼を通じて、貴方が持つであろう他の能力を試そうと思ったのよ」


「…………」


「私の予想は、良い意味で見事に裏切られた。ディーノ君、貴方は私の予想を遥かに上回る満点以上の結果を出してくれた!」


「…………」


「ディーノ君は文句なくランクBの冒険者よ。いえ! 更に高みへと登りなさい。ブランシュと同じランクA、そして私の居るランクSへ!」


こうして……

ふたりの超一流ランカーから文句なしの太鼓判を押され……

ディーノは新たな自信を持つ事が出来たのである。

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