10.精霊術師、分断する


「フフフッ……」


「「キャッキャ」」


 腕や指を絡ませながら、愉快そうにゆっくりと歩く者たちがいた。白魔術師ドルファン、黒魔術師マール、盗賊のルーシェの三人だ。


 その先には赤黒い岩肌に巨大な穴を覗かせる洞窟があり、待ちくたびれた様子の戦士ファゼル、鑑定士レミリアの姿もあった。


「おい、遅すぎだろ、ドルファン……」


「そ、そうよ! いくらなんでもあたしたちを舐めすぎじゃない……?」


「ふむ……? 僕のことが気に入らないのであれば、今すぐこのパーティーから抜けてもいいが……」


 いかにもつまらなそうな顔で引き返そうとするドルファン。


「あ、待ってくれ、ドルファン! その、俺が悪かった……!」


「あ、うん、あたしも悪かったわ、ドルファン。ずっと待ってたから、ちょっと苛ついちゃって……」


「そうかそうか。ならば許してやろう。それとだ、レミリアとやら」


「はい……?」


「君も僕のハーレム要員に加わりたまえ。嫉妬していたのだろう?」


「ぇ……」


「ん?」


「あ、はい! 嫉妬しちゃってたの!」


 はっとした顔でドルファンに抱き付くレミリア。


「お、おい、レミリア、お前……!」


「ご、ごめん、ファゼル。今回だけだから……ね?」


「ちっ……!」


「フフッ。そうか、確かレミリアはファゼル君の恋人だったか。でも魅力的すぎる僕を見て心変わりするのは仕方あるまい。これからは僕の愛人にしてやろう……」


「な、なんだと!? ドルファン……お前、レオンがいなくなってから、いくらなんでも調子に乗りすぎ――」


「――ん、何か言ったかね……?」


 ドルファンに邪悪な笑みを近付けられ、ファゼルの顔が見る見る青ざめていく。


「あ、い、いや、なんでもねえ……」


「なんでもねえ、か。口が悪いな、君は」


「あ、なんでもないです……」


「フフッ、それでよいのだ……」


 歯軋りするファゼルに見せつけるかのように、ドルファンが少女たちの頭を一人一人、満足そうに撫で始める。


(本当に、このパーティーは低能揃いで居心地が良い。それにしても、だ……。鉄壁パーティーなんて言われているから僕の白魔術の手柄にするにはちょうどよかったが、本当は一体誰が優秀なのだろうね……? ルーシェは最近入ったから違うとして――)


 彼はしばらく、顎に手を置いて考え込んだ表情になる。


(――間抜け面のファゼルが無意識に闘気で敵の攻撃力を削っているのか、あるいはメスガキマールの黒魔術の隠し効果か、それともバカ女レミリアの鑑定眼が味方にも適応され、上手く受け身を取れているのか……? まあ僕が前線で戦うわけでもないし、追放したレオンとかいう無能は関係ないだろうし、どうでもいいことか)


「あぁん、ドルファンさぁん、マールはもっと甘えたいのお……」


「ドルファン様は私のものだから盗らないでっ」


「はあ? ドルファンはあたしのものよ!」


「「「むうぅ……!」」」


「こらこら、僕は一人しかいないのだから取り合いはやめたまえ。やれやれ……僕が何人もいれば誰も困らないのに。ハッハッハ!」


 ドルファンの高笑いが周囲に響き渡った。




 ◇ ◇ ◇




「…………」


 なんか今、洞窟の入口のほうで変な笑い声がしたような。気のせいか?


「レオン、見て見てー。亀さんいっぱいー!」


「う、うわ……」


 振り返ったらエリスがとんでもないことになっていた。


 人間の子供サイズの大きな赤い亀――フレイムタートル――に指だの腕だの色んな箇所を齧られつつ駆け寄ってきたんだ。


 おいおい、これもう、普通なら激痛で気絶してるか死んでるレベルだぞ……。やつらは動きが鈍いが、攻撃力や防御力は極めて高いわけだからな。


「レオンもやってみるー?」


「えっ……」


 いや、それはどうかなと思ったが、無の上位精霊の恩恵として物理ダメージに極端に強くなるわけで、それも正式に契約した場合さらに防御力は上がるっていうから、普通に大丈夫なんじゃないか……?


『グゴゴッ……』


「…………」


 しかし、このいかにも凶悪そうなフレイムタートルの顔を見てるとどうしてもためらってしまう……。


「あ、もう齧られてたねっ」


「え?」


 うつむいてるエリスの目線を追うと、いつの間にやら俺の足の脛部分が亀に齧られていた。こんな泣き所を攻撃力大のモンスターに齧られてるのに全然痛くないって……さすが無の精霊と正式に契約しただけあるな。


「たのしー!」


「ははっ……」


 エリス、耳まで齧られてるというか齧らせてるし……っと、遊んでる場合じゃなかったな。モンスターはダンジョン内では一定の量しか湧かない仕組みだし、ほかの冒険者の邪魔にならないようにとっとと倒さないと。


 ってことで杖で甲羅を叩き始めたわけだが、こっちと同じように硬くてまったくダメージを与えてる気配がなかった。


「レオン、見ててっ」


『グガッ!?』


「えっ……」


 エリスが握り拳を作ると、一発で亀を潰してしまった。こんなに細い腕なのにやたらと怪力なんだな……いや、これってまさか……。


「ま、まさか、防御力を無効にしたのか……?」


「うんっ。レオンもやってみて! 亀さん亀さん、抵抗しないで大人しくなってねーって祈るだけだよ!」


「なるほど……」


 それは多分エリスなりのやり方なんだろうな。ってことで、俺は脛を齧るフレイムタートルに向かって柔くなれと何度か念じたあと、杖でコツンと甲羅を叩いてみたら一発であっさりと真っ二つになってしまった……。

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