第155話 上手に使いなさい

「うーん、なんだか身体が痛いなあ……」ルゥラは自分の肩に触れる。「私の身体って弱いのかなあ……」


 ルンルンも弱い身体だと言っていたが、そんなことはないだろう。あれほど派手に暴れられたら、誰だって身体を痛めるに決まっている。


「今日は休んでいた方がいい」月夜は言った。「無理をしても、いいことは何もない」


「月夜が言っても説得力ないよ」ルゥラは彼女を上目遣いで睨んだ。「毎日帰ってくるのが遅くて、夜更かしもしていてさ」


「私にとって無理ではない」


「無理だよ。最近、なんだか眠そうだし」


「おそらく、前と生活リズムが変わったせい」


「私が毎朝ご飯を作るようになったから?」


「ルゥラが傍にいるだけで、色々と変わる気がする」


 ルゥラはくすくすと笑った。リスではないのだが。


「フィルはどこ?」


 ルゥラに問われ、月夜は目だけ上に向ける。


「二階で皿を片づけている」


 ルゥラは月夜を見つめる。彼女は目を何度か瞬かせた。それから周囲に視線を巡らせる。リビングは大分片付いていたが、重ねられた皿が部屋の隅に置かれていた。


「私、どうしてこんなことしたのかな」


「ルンルンに乗っ取られていたから。貴女のせいではない」


「私、この力、もういらないと思うんだ」ルゥラは自分の手を見る。「だって、月夜にご飯を食べてもらえて、もう願いは叶えられたんだから」


「私にご飯を食べてもらうために、どうして皿が必要だったの?」


 ルゥラは少し困ったような顔をする。


「うーん……」


「前に、皿が好きだと言っていた」


「そうだよ。円くて、白くて、格好いいよね」


 格好良いだろうかと月夜は自問する。結論は出ない。


「なんでだろうなあ……」ルゥラは何度か頭を回した。「なんとなく、そうすればいいって思っただけなんだ。ご飯を食べるきっかけになるというか……」


「力をなくすことはできるの?」


「ううん、分からない」ルゥラは首を振る。彼女の挙動は分かりやすい。自分もそうかもしれないと月夜は思う。「皿を生み出すのはいつでもできるんだよ。今、やってみようか?」


「やりたいの?」


「別にやりたくはないけど」


「沢山は困る」月夜は言った。「でも、ルゥラが生み出す皿は、どれも個性的で面白い」


「そう? うーん、それ自体を目的にすればいいのかな……」


「今ある力は失わない方がいい。少なくとも、そちらの方がポテンシャルは高い」


「ぽてんしゃるって何?」


「直訳すれば、可能性」


「可能性?」


 月夜は一度黙って考える。


「その力を保持していた方が、後々何らかの役に立つ可能性がある、ということ」


「ほんとに?」


「おそらく」


「そっかあ……。つまり、上手に使いなさいって言いたいんだね?」


「そう、かな……」


「分かった」ルゥラは笑顔で頷いた。「上手に使う」

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