第108話 talk
昼休みの屋上。
正確には屋上ではない。渡り廊下の上だ。そこだけ校舎の中で外気に晒されている。今日も眼下に噴水が見えた。勢いはいつも通りに水を吐き出している。
人通りは少なかった。もう、昼休みが始まって暫く経つからだ。始まってすぐと終わる間際には人は多くなるが、その間では少ないのが一般的だ。つまり、余裕を持って移動する者は、そうでない者に比べて目立つということになる。ここでの「目立つ」というのは数が多いということではないが。
渡り廊下を支える壁の側面から、何か黒いものがこちらに近づいてきた。それを視認して一秒くらいは分からなかったが、次のカウントに移るくらいには判断は終わっていた。
フィルだった。
「日中に来るのは珍しい」
床(地面?)に難なく着地した彼に向かって、月夜は分析結果を述べる。
「俺もそう思う」フィルは応えた。「ちょうど通りかかったんでな。これから時間をかけて家に帰るつもりだ」
風が吹く。午前中は晴れていたが、今は若干雲が出てきていた。日が遮られると途端に冷たくなる。それだけ地球は太陽に依存しているということだろう。地球温暖化の前に地球冷酷化の心配をすべきかもしれない。
「皿はこの学校を中心に分布している」月夜と一緒に前方を眺めながら、フィルが話した。「学校からお前の家までを半径として、四方八方に広がっている感じだ」
「どうして、私の家を中心にしなかったんだろう」月夜は思いついた疑問をそのまま口にする。
「俺には分からないが、学校で過ごす時間の方が長いからじゃないか?」
「分からないのに、分かるの?」
「ディスコースマーカーみたいなものだからな。譲歩の意味を付加するためだけにはたらいているんだ」
「その、ばら撒かれた皿には、誰も気がついていないみたいだった?」
「おそらく」
「フィルの存在は?」
「俺の存在? 俺はいつもどんなときでも俺だが」
「どういう意味?」
「何でもかんでも意味があると思ってはいけない」
「思っていないけど」
「月夜は相変わらず可愛いな」
「どうも、ありがとう」月夜は素直に喜ぶ。表情は特に変わらなかった。
「今の忠告を聞いていたか?」
「そもそも、意味とは? その定義が曖昧だから、互いに話が噛み合わないのでは?」
「公平や正義を議題としたときに、戦争に発展するのと同じか?」
「同じかもしれないし、同じではないかもしれない」
「なるほど」フィルは満足気に頷いた。「可能性というやつだな」
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