第19話 スライム破裂ゲーム
俺はスイートルームのベッドの上で、見たことのある窓からの陽光を浴びながら重い瞼を開けた。
相変わらずリリアは俺よりも早く起きて身支度をしている。
一方でカーヤは寝相が悪く、ベッドの上で非常口マークのようなポーズで寝ていた。
「おはようリリア」
「おはようございます。京谷さん」
何気ない朝の挨拶に俺は幸せを感じていた。本当にこの街で行方不明の事件など起きているのだろうか。
「おいカーヤ起きろ。さっさと用意してギャンブルしに行くぞ」
「むにゃむにゃ……レイズ! ……やったぁあたし勝ちぃ……うへへへ……」
夢の中のギャンブルで勝利したのか、ヨダレを垂らし気持ちよさそうな表情で腹を掻いていた。
「……なんなんだこいつは。リリア、起こしてやってくれ」
「カーヤちゃんったら、乙女としてはしたないですねぇ」
そういうとリリアは獣化して、少量のブラストを首元へと放った。
カーヤは首筋を撫でる風に鳥肌をたてながら、ベッドの上で魚のように飛び跳ねながら起床した。
「ちょ、ちょっとなにすんのよ! あ、あれ? あたしの大金は?」
「そんなもんはない。現実に戻ってこい」
ガックシと肩を落とすカーヤに俺とリリアは笑った。
自然と出る笑いに鳥たちが答えるかのようにチュンチュンと鳴いたのであった。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「邪魔したな。また泊まるとこが無かったら来るよ」
オババにチェックアウトの事を告げ、俺は宿屋を後にした。
オババは宿屋の外まで見送りに来て、何度でもいらっしゃいと俺の背中に言った後に戻っていった。
宿屋を出た俺たちは、この街にどんなギャンブルがあるのかを見て回っていた。
「京谷さん、今日はどんなギャンブルをやるんですか?」
「あたしは面白いのがいいな~。戦うのも好きだけど、せっかく三人いるんだし何か面白いものやろうよ!」
リリアとカーヤの意見は同じなのか、二人でどんなギャンブルがいいかと通る店の前を全て品定めしていた。
「う~ん面白いものかぁ……お、これなんてどうだ?」
【スライム破裂ゲーム】
店の看板に物騒な名前のギャンブル名が書いてあった。
一体どんな残酷なゲームなんだろうかと想像を膨らませる俺の横でカーヤは耳をぴょこぴょこ動かしながら興奮していた。
「な、なにこれ超楽しそう!」
「破裂って……ちょっと怖いゲームなんでしょうか?」
どんなギャンブルなのか三人とも想像出来なかったので、俺は下のルール表を二人に聞こえるよう読み上げていった。
――ルール
――スライムにディーラーと交互に餌を食べさせていって、限界点に達して破裂させたら負け!
――勝てば掛け金の2倍 負ければ全て没収!
――ちなみにスライムだから破裂してもすぐ元にもどるヨ
そう記される文末にはおっさんがウインクしているヘタクソな絵が添えられていた。
「な~んだ。破裂しても元に戻るなら怖くないですね」
「え、京谷! これにしようよ!」
はしゃぐ二人はもうこの店の前から動かなそうだった。
俺は二人に手を引かれながらスライム破裂ゲームの店内へと足を進めた。
「お、いらっしゃい」
店内に入ると可愛いまん丸の目玉が着いた水色のスライムを愛くるしそうに撫でる、屈強な白い半そでのシャツを着た店主がそこにいた。
かなりのスライム好きなのか、店内にはいたるところにスライムに関するものが置かれていた。グッズにポスター、スライム型のジョッキなど様々だ。
しかもスライムだけでなく、数多くの果物もそこら中に置かれていた。
「三人だ。チャレンジできるか?」
俺は指を三本立て、こちらが三人であることを伝える。
「お、いいねぇ。俺の可愛いスライムちゃんにたっぷり餌をあげてくれ。ちなみに三人同時か一人ずつか、どっちにする?」
なるほどそういう選択もあるのかと悩む俺だったが、カーヤは一人でやりたそうな目をこちらに向けながらスライムをつついていた。
「じゃあまずは一人ずつやろうかな」
俺は店主に掛け金の500ぺリスを渡すと、まずはカーヤが名乗りをあげた。
「あたしから挑戦させていただきます!」
カーヤは店主が用意した数多くの果物の一つ、緑色の真ん中がくびれた果物を手に取るとスライムの顔の前へと近づけていった。
新鮮な果物を目の前にすると、スライムはカーヤの手ごと包み込んだ。
「ひゃ、ひゃあ! なんか冷たくて気持ちいい……」
顔を赤らめながら人様に見せてはいけない表情をすると、店主が怖いことを言い始めた。
「あんまり長いことスライムの中に入れてると腕が溶けちまうぞ~」
「え、えぇ!? 先に行ってよ!」
慌ててスライムの中から腕を引き抜くと、その勢いに少しスライムの破片が飛び散った。
それを見た店主はそそくさと破片を拾い集め、スライムに被せて融合させていった。
「おい! もっと大事に扱ってくれよ! スライムちゃんが可哀そうだろ!」
(破裂させるのはいいんだろうか……)
そう言う店主はスライムを大事にしているのかしていないのかよくわからないギャンブルの店を出していることに、少し疑問を抱く俺だった。
「じゃ、次は俺の番だな。は~いスライムちゃんご飯でちゅよ~」
その大柄な体で赤ちゃん言葉を放つ店主は少し不気味だった。
太い腕で黄色く細長い果物をスライムの方へと持っていくと、じゅるりと吸い込んだ。最初の時より少し大きくなってきているようにみえた。
「よ、よし次はあたしだね」
三ターンほど順番が周りカーヤのターンがやってきた。
スライムは最初の二倍ほどの大きさになっている。
「も、もう苦しそうですよ……」
「これはそろそろ来るんじゃないか?」
「じゃ、じゃあこの小さい果物を上げようかしら……」
腕を組みニヤニヤと様子を見守る店主に俺たちはハラハラしていた。
実は、俺は未来予知を使わずにこのギャンブルを純粋に楽しんでいる。
――パァァァァン!
カーヤが紫色の小さい果実の実を食べさせると、スライムが破裂音と共にはじけ飛び、あたりに破片が散乱した。
「うおおおお! スライムちゃん今日も綺麗な爆発だぁぁぁぁ!」
破裂したスライムを見て目を見開きながら興奮する店主はそういう性癖なのだろうかと俺は思ったが、それ以上考えるのをやめた。
「や、やっちゃったぁ! 京谷、爆発するなら教えてよ! びっくりしたじゃない!」
「はは、悪いな。楽しかったもんで、つい」
「カーヤちゃんの負けです~」
爆発したスライムの破片を集める店主を横目に、俺たちは凄く盛り上がっていた。
破片をすべて集め終わりスライムの原型を取り戻すと、スライムは満足そうな顔をしながら店主に抱きかかえられ、店の奥へと連れていかれた。
一分ほどすると、店主は新しいオレンジ色のスライムを奥から連れてきた。さすがに同じスライムではチャレンジしないらしい。
「よし、次は嬢ちゃんと兄ちゃん、どっちがやる?」
「わ、私は京谷さんと一緒にやりたいです」
爆発に少し怯えるリリアは、俺の裾を掴みそう言った。
「よし、じゃあ俺たちは二人でやるか。いいか?」
そう提案すると、店主は快く受け入れてくれた。
「よっしゃ! ちなみにこのオレンジ色のスライム、ちょっと特殊で好き嫌いが激しいから、注意してくれよ~?」
そうニヤリと笑いながらオレンジ色のスライムを撫でる店主だった。
このスライムの目は先ほどとは違い、キリっとしているように見えた。スライムによって性格の違いもあるのかと俺は一つ勉強になった。
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