第16話 新たな仲間

  棍棒を持つ右手が負傷し、慣れない左手で棍棒を握るオーク。左で棍棒を振るったことがないのか、見える未来での動線は明らかに弱くなっていた。


「よし、ここまで弱らせれば十分だな。エンチャント付与、炎!」


――ジュワアァァァ……


 短剣を握り、宿屋で覚えたスキルを使うと刃が夕焼けのような色に輝き、煙を上げ始めた。


「お、おぉすげぇ。この距離でも熱気を感じるぜ」


 短剣から伝わる熱に感動しながら、弱るオークの背中へと回り込み、俺は短剣を広い背中へと突き刺した。


 ジュワァと音を立てながらバターのように刃が肉へと滑り込む。焦げた肉と血が周囲に異臭を撒き散らした。


「リリア! 傷跡に魔法をぶち込め!」


「傷跡ですね! 可哀そうですけどわっかりました!」



――ビュゴオオオオオ



 リリアは口から今日一番のブラストを発動した。風はオークの背中を切り裂き、傷口がさらに広がる。


「よし、ここで決めるしかない! マネーショットォォォ!」


 俺は全財産となる1000ぺリスの弾丸をオークの背中に向けて撃った。100や300の時とは明らかに違う弾丸は空を切り、黄色い残像をつくりながら命中した。



――ズシャァァァァァァ!



 傷口にモロにヒットした弾丸は、オークの心臓を射止め静止させた。オークはその場に倒れこみ、顔を砂で汚した。


「た、倒したか」


「やりましたね京谷さん!」



――ワァァァァァァァァァァ!



 とんでもない量の歓声が闘技場を木霊こだまする。

 カーヤも外れた参加券を放り投げ、隣の観客と一緒に喜んでいた。



「あいつまじかよ! やりやがったなぁ!」


「これは歴史に残る試合だぜ!」


「あぁ、今日来てよかったぁ。次こんな試合見れるのは何年後なんだ~」



 あちらこちらでどんちゃん騒ぎが行われる中、終了のゴングが響き渡った。



『な、なんということだぁぁぁぁ! 勝者は長谷川京谷はせがわきょうやリリアコンビ! オッズは30倍の高額配当だぁぁぁぁ! 俺も京谷に賭けとけばよかったぜぇぇ! 的中したヤツら、コングラチュレーション!』


 アナウンサーもオークに賭けていたのか、悔しさと興奮が入り混じった声で盛大にアナウンスする。


 俺たちは歓声に包まれる中、ロビーへと帰っていった。




  ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼




「あんたやるじゃない! ほんっっっっとうに面白い試合だったわ!」


 俺がロビーに入るや否や、カーヤは小走りで駆け寄ってくるなり興奮冷めやらぬ様子で試合の感想を話し出した。



「だから言ったろ? 俺たちに賭けとけって。お前がオーク側に賭けてるの闘技場側からでも分かったからな」


「あ、あはは。あたしの目を騙すたぁお主、なかなかの手練れよの。さては世界一のギャンブラーか?」


 変な口調でそう話すカーヤに図星を着かれた俺は、少し驚いてしまった。この女、かなり勘がいいらしい。



「京谷さん、勝利おめでとうございます。こちら賞金の10000ぺリスでございます」


 ヒゲをゆっさゆっさと揺らしながら近づいてきたオーナーが、大量のお金が入った茶色い袋をこちらに渡してきた。


 オーク側に賭けられていた金額が多かったらしく、かなりの額が俺の懐に入った。俺はその袋の中から、カーヤの借金分を取り出しオーナーに渡した。


「ありがとう。じゃ、これ3000ぺリスな。これで十分か」


「はぁい。きっちりと3000ぺリス頂きましたよ。……ケモノ女、次壊したらもっと高額で請求してやるからな」


「ひゃ、ひゃぁい……」


 俺への気持ち悪いくらいの笑顔を瞬時に切り替え、カーヤをにらみつけた。

 カーヤは慣れているのか、視線を合わせず口を尖らせながら後ろで手を組んでいた。


 その後オーナーは満足した様子で受付カウンターの中へと消えていった。



「ほんとありがとう京谷! おかげで明日も元気に生きて行けそうだよ~!」


 手をパンッと合唱させ、かわいい仕草で俺に礼を言った。


「ところでさ~……京谷めっちゃ運よさそうじゃん? だからあたしも仲間にいれてくんない……? あたし魔法使いなんだけどさ、攻撃魔法使えなくて戦闘系ギャンブルの勝率めっちゃ低いんだよねぇ……」


 そうウインクしてくるカーヤは、確かに闘技場では一度も攻撃魔法を使っていなかった。もう一人くらい仲間が欲しいと思っていた俺は、もう少しカーヤの事を探ってみることにした。



「じゃあその杖は何に使うんだ?」


「あぁこれ? あたしは防御系魔法の専門なんだ~」


「そうなのか、だからオーク戦の時攻撃してなかったんだな」


 カーヤはなぜか得意げに胸を反らしながら言った。

 あの戦闘っぷりに納得すると、リリアはカーヤと仲良くしたそうにしていた。



「私たちの中に防御系魔法を使う人はまだ居ませんし、是非仲間にしてあげては……?」


「さっすがリリアちゃん! よくわかってる! 攻撃魔法使えない魔法職なんていらない! っつって誰も拾ってくれなかったんだよ~! こんなに可愛いカーヤちゃんなのになんでなんだ~!」


(そういう所も含めてなんじゃないのか……?)


 自画自賛するカーヤはなぜか加入する前提で話が進んでいるが、防御系魔法は確かにあって困るものでもないと思った俺はカーヤを受け入れることにした。



「あたしことカーヤ・スカーレット、京谷の為に全力を尽くします!」


 片足を上げ魔法の杖を掲げるカーヤをリリアは拍手していた。見た感じバカっぽいが、明るい性格に加えてたまに鋭い感を魅せる彼女はそこそこ魅力的に見えた俺であった。




【あとがき】

 ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。

 これにて第一章 出会い編終了です。

 次回から第二章が始まる前に、まだフォローしてくださいっていない方や、レビューを悩んでいる方、是非このタイミングでしていただけると執筆の励みになります。


 よろしくお願いいたします。それではまた次回!

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