第153話 性格の悪い人

「いやさ、あんな面白い見ものはなかったねぇ!!」


ここは青州の州都、斉国せいこく臨淄リンシ県城。

城内に堂々と設置された河伯教団青州支部の屋敷で楽しそうに酒を飲んでいるのは、先だって西園八校尉に任命された劉備さんです。


結構な高官についたはずなんですが、こうやって上着を羽織って大あぐらで酒を飲んでいると遊侠やくざっぽさが抜けていないです。


「宦官の連中も、悪口や密告への対策は万全だったんだが、正面から褒められて讃えられることへの対策が全然できてないでやがる。で、気が付いたら新聞でがっつり青州の名刺史サマの話が洛陽中に広まってるって有様だ」

「誉め言葉ですからな、まさか罠とは思いますまい」


若白髪の賈詡カクさんが痩せた手で髭を撫でながら返事をします。


「で、噂を消せなくなったところで俺から殿下ベンおうじにご報告して、陛下のお耳に入れておくと。治水も新田開発も陛下と殿下の目玉政策だ。そりゃもう大喜びで勅使を送って褒めて遣わすとそうなった」

「大宦官の張譲チョウジョウが知った時には手遅れ、ということで」

「いや、よくまぁこんな性格の悪い策を考えたなぁ」


劉備さんがバンバンと賈詡さんの背中を叩きます。

あれ?賈詡さんの策と勘違いしてる?


「性格が悪くて申し訳ありませんでした」


私はわざとツンと口をとがらせて怒ったふりをしました。


「あれは主公とのの策でござるぞ」

「え、あれ?!嘘?!いや、性格が悪いってのはこの中年のことだぜ?!いやぁ、さすが正面から人を褒める性格の良さが出てる策だなぁ」


劉備さんが慌てて頬をかきながらいいわけをします。


「ふふふ、気にしなくていいですよ。怒ってないです。たしかに意地悪のつもりで褒め殺しを考えたので」

「へぇ、褒め殺しっていうのかこの策」

「それより、朝廷はもっと性格が悪いですよね」


一応、治水工事は始まったものの、刺史そうとく太守ちじも最初は表面を取り繕おうと見せかけの工事や工事の準備ばかりやってサボろうとしていました。


そんな折、黄巾残党の討伐軍が派遣されたのです。朝廷から重臣が都督として派遣され、実働部隊としては劉備さんが西園軍を率いて、泰山の山賊や青州支部をあっという間に降伏させてしまいました。

もちろん、これは青州支部を合法化するための演技で、事前打ち合わせ済みです。


問題は都督の人選です。


そう、あの、三国志イチ性格の悪い、孔融コウユウさんが都督として赴任されたのです。

「ああ、孔子サマの子孫だよな、あれは孟徳ソウソウさんの発案だぜ」


なるほど納得です。


曹操さんに何を吹き込まれたのか、孔融さんは刺史のもとに押しかけて「父老から讃えられるほどの刺史や太守にぜひ学びたい、きっと素晴らしい善政で税も安く、民は皆安心して生活していることだろう」と政庁にどっかりと居座ってしまったのです。


儒教の教祖様である孔子の直系子孫に政庁に居座られてしまった刺史は怯え切って急に仕事を真面目にやるようになり、工事がサクサクと進むようになりました。それどころか今まで取っていた余計な税をなくしたりもしています。


それを見て孔融さんがさらに讃えるので、刺史はさらに政治をせざるを得ず、私財をなげうつどころか張譲さんに泣きついて資金を融通してもらっているとか。


いやぁ……騙されたふりしてますけど絶対孔融さん全部わかっててやってますよねコレ……


「いやぁ、あのオッサン本当に性格が悪くて付き合いづらいのなんのって」


一応反乱討伐軍の都督ということで劉備さんの上司なのですが、報告に行くたびに礼儀がなってないとかお小言を言われるんだそうです。劉備さんは割とマジメな時は礼儀作法をきちんとする人なのですが、それでも言われるとは……


「でさ、工事が終わったら刺史はクビで、孔子の子孫さんが青州牧に就任するんだとさ」

「うわぁ……」


これ、弁皇子と曹操さん全部見抜いてて、これを口実に青州を宦官派から取り上げようとしてますよね……。


「私ごときで性格が悪いなんて言うものではないですね、上には上がいました」

「おや?そうですかな?」


賈詡さんがニヤリとしながら何か言いますが無視します。


「さて、無事に降伏もできましたし、合法的に教団を挙げて工事をお手伝いしますか!」

「用意はできておりますよ」


公明さんが各地の支部から物資や土木技術者を集める計画を立ててくれています。



こうやって、民が困っている土地を少しずつ改善していって、弁皇子とも連携して政治も立て直していけば……きっと漢王朝も滅亡の運命を逃れ、三国志らんせを防ぐことができるでしょう。


そうすれば今度こそ穏やかに楽しく家族で暮らすことができるはず!!


がんばるぞー!!



 ー ー ー ー ー



中平四年、つまり悪役令嬢人妻巫女の董青、15さいの年はそうやって過ぎていきました。少しずつ状況が改善していくと思っていた年の暮れ。





皇帝が倒れました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る