第151話 反乱計画

いやいや、新王朝……新しい王朝なんて冗談じゃないですよ。

後漢の前に新って王朝があるのでややこしいですが。賈詡カクさんの言ってるのは私の王朝ですね。董王朝でしょうか。涼王朝でしょうか。いや、そうじゃなくて。


そもそも、私は青州の黄巾残党百万の反乱を未然に防ぐべく、青州にやってきて河伯教を広めて産業や交易で民を豊かにしたのに、宦官系の太守ちじ州刺史そうとくが治水や新田開発をすると嘘をついて税金を私物化しているのがムカついてですね。


「だから軽く反乱して悪いやつらを懲らしめ、不正蓄財を没収して民に戻したら、曹操モウトクさんや劉備ゲントクさんに討伐しに来てもらって降伏する予定なんです!」

「反乱を防ぐために軽く反乱……?」


私が必死に事情を説明すると、若白髪の賈詡さんが痩せた首をひねって悩み始めました。


「あれ?」

なんでこうなったんでしたっけ?


「いや、その、巫女さまが起こそうと言うのは本当の反乱ではないのです」

「そう……偽物です!」


公明さんだんなさまが助け舟を出してくれました。その通り、本当の反乱を防ぐために偽物の反乱をですね。


「偽物であろうと、百万の大軍で青州と近隣の郡を巻き込んだら本物になりますぞ。それに……」


賈詡さんが真顔で付け加えました。


「百万の大軍を全部把握できておりますか?」

「……えっと」


そもそも各支部で何やっているかも報告書でしかわかってないし、青州支部百万人といいつつ、黄巾の残党とか泰山の山賊とか混ざってるし……あ……。


「百万をひとたび動かせばもはや大地が動くようなもの。簡単には止められませぬ。主公とのが大ごとになる前に降伏したいと思っても必ず末端はやりすぎましょう」


賈詡さんが続けます。


「さらに、教団は青州だけでなく、兗州エンシュウから荊州ケイシュウ司隷部きんきにまで広がっており、人脈は朝廷内に通じております。この状態で反乱を起こすような教団の降伏を朝廷が受け入れるかどうか」


うう……そこまで話が大きくなるとは。


「で、その状況で弁皇子が教団をかばうために動けば曹操以下が同調し、反発する何進やら袁紹が騒ぎ出して朝廷の対応が割れて混乱します。そこにつけこみ洛陽に進軍、涼州の董将軍に荊州の孫堅と呼応すれば大宦官討滅もたやすいでしょう。そして主公とのが百万の軍で朝廷を制圧して政権掌握、政治改革を行い、その勢いで皇帝と弁皇子を引退させて主公とのが皇帝に即位。というかその策をもう作っております」

「やめて?!」


なんで皇帝にしたがるの?!


「いや長年の目的である政治改革をする機会ではないですか」

「……政治改革は乱世を防ぐ手段ですよ」

「そもそも、主公とのが反乱するとおっしゃったのでは」

「ごめんなさい!!!」



うわぁ……どうしよう。


 ― ― ― ― ―



「えっと、やっぱり反乱なし、というのは?」

「主公が信用を失いますし、青州の民の不満が何も解決されていませんので早晩爆発しますな。そうなれば中途半端に組織化して計画も立ててしまっている分だけ、反乱はより大規模になるかと」


あうあう。


公明さんが口をはさみました。


「やはりここは、まっすぐ宦官系の太守ちじ州刺史そうとくを排除して、民の不満を解消すべきでしょう。朝廷に密告しますか?」


「うう、朝廷の密告で大宦官の張譲チョウジョウさんや趙忠チョウチュウさんに勝てる気がしないです」

「無理でしょうなぁ、弁皇子に報告だけしても言いくるめられておわりでしょう」


私が大宦官の二人を思い浮かべながらくらい表情で言うと、賈詡さんも補足してくれました。


「では闇討ち……だめか、すぐに後任が送り込まれるし民の生活が良くならない」

「複数の太守ちじ州刺史そうとくを全部闇討ちするのは骨ですし、すぐ防備が固められましょうな」


公明さんがいろいろ案をだしますがダメっぽそうです。


「反乱したら、政権奪取まで一直線ですね……」

「ワシが策をだしますでな」


賈詡さんは上手く行く策をだしてくれるので、策を採用しなければ泥沼の内戦になって普通に黄巾の乱になってしまうだけです。


「ああ、宦官系の太守ちじ州刺史そうとくが真面目に治水して新田開発していればこんなことには……」


私はべっどに突っ伏して唸りました。彼らが真面目に仕事をしてさえいれば民も不満を貯めませんし反乱なんて起こさなくていいんです。朝廷がちゃんと真面目に仕事をするように言えばこんなことには……



「あれ……? ということはつまりこうしたら……反乱しないで全部上手く行く?」

「お、どのような案でしょうか」


賈詡さんが興味深そうに近くににじり寄ってきました。

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