第90話 長安で策謀する

あっさり賈詡さんに男装を見抜かれてしまった美少女官僚の董木鈴です。



長安に到着して、交易で手に入れた金銀財宝を売却します。

なんと、資本もとでの10倍近い利益が出ました。


ただ、戦場を無理やり横断するため、護衛の騎兵を大勢連れ歩いたために経費も莫大にかかってしまっています。

ある程度は皆さんに褒賞として配ると約束もしています、これは持ち逃げされないようにですね。



「え?この金の銭が欲しいのですか?」

「はい、お願いします!」


公明くんに褒賞ぼーなすは何がいいですか?と聞くと、ローマ金貨をくださいと言われました。1枚がだいたい半両6~7グラムぐらいの重さ。金1斤=16両で1万銭が公定価格なので、金貨2枚で1両分の金、つまり600銭ぐらいの価値になります。


「でしたら4枚ほど取っていいですよ」

「お嬢様の好きな絵柄はどれですか?」

「……え、どれもカッコイイですけど、じゃあカエサルさんとネロさんとアントニウスさんとかどうでしょう?ほら、こちら裏に女神の像が彫ってあるのでお勧めですよ?この彫刻は漢朝にはないですよね、写実的で……」


公明くんは金貨を受け取るとお礼を言って去っていってしまいました。

うーん、もっと金貨や彫刻について語りたかったんですが……。


まぁ、すぐ鋳つぶされちゃうよりは知り合いに持ってもらったほうがいいでしょうか。




「おお、さすがは木鈴さま。こんなに頂けるとは気前の良い」

「よっしゃ、今日は飲みにいくぜおめえら!雲長も益徳も暴れるなよ!」

「酒だぜー兄者!」

「ここは玄徳殿にお供させていただこう」


劉備さんたちは騎兵さんたちを長安で飲みに連れて行くようです。

趙雲さんと董家の私兵も一緒ですね。



なお、賈詡さんにも分け前を渡そうと思ったら固辞されました。

奴婢どれいが大金を持つと危険だそうです。



 ― ― ― ― ―



長安の董家屋敷には大勢の文官が出入りしています。

私が不在の間も事実上の官軍の補給司令部として稼働してもらっていました。


「うーん、なんでこんなに報告書を溜めるんですか」

「無理いわんといてくださいや、これでもサボってはおらんのですけど……」

「できれば最前線がヨカッタな……」


郭汜カクシさんと李傕リカクさんが疲れた顔をして仰います。


これでも補給の仕事はサボってはおらず、現場の属吏すたっふさんたちも輸送や買い付けはきっちりしてくれています。

問題は、それを報告書にまとめられてないということですね。


さっそく、日々の報告書や各担当の記憶をたどって、帳簿の整理をはじめました。

出来る人がすくないので、賈詡さんにも手伝ってもらいます。


しかし、日々の仕事をする属吏すたっふがたくさんいるのはいいですが、

董家には彼らを統括できる高位の文官が居ないのが本当に厳しいですね。





 ― ― ― ― ―


屋敷の奥にはいると、とたとたと髪の色素が少し薄い美少女が私の方に駆けてきました。

私の女仙えんじぇる、姪の董白ちゃんです。しかしこの髪の色は西域の血が少し混ざってるんでしょうか?


「お姉様ー、寂しかったのじゃー」

小白白ちゃん!ごめんね、ほっといて冒険の旅になんかでちゃって」


ひしっと白ちゃんと抱き合う私。

ああ、こうして暮らしたい……。


ずっとだきしめていたかったのですが、すっと白ちゃんに逃げられてしまいました。


「あ、皇子さまもお帰りなのじゃ」

弁くんが遅れて部屋に入ってきたようです。


「ありがとう小白白ちゃん、ただいま。勉強になったよ」

「皇子さまは勉強してきたの?」

「うん、涼州の政治や民の暮らしを実際に見て来たんだ……彼らの生活を守らないとね」



「で、あれば」

かーてんの向こうからにゅっと賈詡さんが生えてきました。


「こちらを清書いただけませんか」

両手に竹簡しょるいの束を抱えています。



白ちゃんがおじさん誰?って顔で見ているので新しい部下ですと説明しておきます。


弁くんが竹簡しょるいを見て、中身を確認したようです。

「これは……うん、涼州の刺史そうとく太守ちじの悪行や汚職の報告書だね?」


私は一つうなずいて説明します。

「ええ、賈詡と相談したのですが、涼州の政治をたてなおすためには、汚職官僚を追放しないといけません。ですが、高位高官の人事については董将軍の権限を越えます。なので皇子から上奏ほうこくしょをあげてもらおうかなと」

「うん、わかった。やるよ……あれ?董将軍の昇進や褒美については書かなくていい?」

「それはさすがに露骨すぎるので……」



弁くんは好意で言ってくれてるんでしょうけど、あまり董家とのつながりを露骨に主張すると悪目立ちして皇帝や宦官に目を付けられそうで怖いんですよね。なのであくまで別に上奏ほうこくすることにしたいです。




「皇子、そこまでは主公とのの言う通りですが、すこしこちらも検討ください」

「……今回の反乱軍討伐を見て、皇帝陛下ちちうえの政策が正しいことを痛感いたしました……今後は心を入れ替えて勉学に励みます……?」


賈詡さんが追加の文章を持ってきて、弁くんが不思議に思って問い返しました。


「あれ?でも董青がいうには皇帝陛下ちちうえの政治がその、大筋ではただしいんだけどダメなところもあるから直そうって話じゃ」

「父はすべて、息子から尊敬されたいのです」

「……」

「それを、逆に息子が父に対して間違っているなどと言っては話を聞いてもらえなくなりましょう」


「……そっか」




賈詡さんに弁くんの使い方について相談したのですが、いま拉致っているのは弁くんの教育はともかく、今後の皇位継承にはあまりよくないそうです。

なので、最終的に政治を立て直すためには、弁くんを押し上げる必要があり、そのためにはひたすら皇帝の今の政治を褒めたたえて、気に入ってもらう必要があるとか。


複雑な気分ですね。

弁くんもあまり嬉しそうではないです。まぁ、父親に対してそういう風に冷静に見るってのは厳しいですよね。

董卓パパは完璧な英雄ですからそういう必要は……バラマキ以外は……あとたまに魔王化するのを除けば……うん、多分完璧です。



弁くんはちょっと悲しそうな顔をしましたが、すぐに気を取り直して一生懸命に上奏文ほうこくしょを書き始めてくれました。

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